コロナ禍に直面して 私観;エアアジア事業モデルの限界

2020720

コロナ禍に直面して 

私観;エアアジア事業モデルの限界

 

航空経営研究所所長 赤井奉久

 

 本記事に述べる見解は、あくまでもAirAsiaが発する投資家情報など、公表されている種々の情報やデータから導きだした私個人のものです。

 

AirAsiaの現状)

 東南アジアのLCCの雄としての地位を築き上げてきたAirAsiaは、コロナの影響によって今経営(資金繰り)の危機にさしかかっている。

 コロナの影響による経営危機は、AirAsiaに限らず、世界の国際線航空会社ならほぼ漏れなく直面しているところであるが、AirAsiaとしての「事業経営の個性」があり、それによって土台が弱くなっていた。そしてコロナという地震で一挙に弱点が顕在化したといえよう。

 

AirAsiaの事業形態)

東南アジアに初めてしっかりとしたLCCを打ち立てたのはAirAsiaが初めてであり、おりからの経済発展と相まってマレーシア国内線に、そして国際線網の拡充と目覚ましい発展をとげた。もちろん収益性も伴った。

国外への進出も急であった。各国の持株制限もあって、合弁会社&フランチャイズ方式で、半分以上の出資を外部に依り、しかしノウハウは100AirAsiaを義務付け、その見返りはしっかり徴収するという形であった。

 この方式は、少ない出資金で急速な規模拡大を可能とさせた。

同時に、新たな会社の収益性に係わらず、リース料やノウハウ料の形で儲けを吸い上げ、AirAsia本体の業績を、実態以上によくすることができた。

 

AirAsia事業の問題点)

事業拡大の大きな一つは中型機(A330)で中長距離路線に進出する別会社(AirAsiaX

である。 この領域は、本来短距離x小型機を基幹とするLCC事業にはなじみ難い、換言すれば利益を上げにくい分野である。

AirAsiaはそこでも一定の成果をあげ、苦労の末少額ながら黒字化も実現した。 

そして規模も拡大した。 しかしそれが収益基盤の不安定さを増幅させた。

経営本来的には、収益性を安定化させることが重要だったのだ。

 

もう一つは、各国にAirAsiaブランドの姉妹会社を幅広く展開したことである。

早くからのタイのほか、インド、日本にも進出した。

日本では、外国からのLCC進出勢力を緩和しようとするANAが提携し、AirAsiaJapan(先代)を立ち上げたが、日本市場の特性を考えない硬直的な事業運営と高いノウハウ料などで1年もたずに破談となった。 今のAirAsia-Japanは、その後楽天等の出資を得て、新たに立ち上げた、まさにAirAsia純粋モデルであるが、今なお売上げを上回る規模の赤字に苦しんでいる。

 インドでは、将来の市場拡大を見据えて規模を拡大中である。

 しかしながら収入単価レベルが余りに低く、90%近い搭乗率をあげてもなお赤字であり、規模拡大によってそれが膨張している。

 タイやインドネシアでは、老舗のLCCとして一定の収益性を保ってきたが、最近2ヵ年は赤字となった。競争激化で、コスト上昇を収入単価で補えず、B/Eが上昇したためである。

 

合弁&フランチャイズの事業展開は、利益の吸い上げを重視する余りに、収益性基盤の構築という地道さよりも、規模拡大(半分以上は他人出資)に走りすぎたのではないか、というのが私の見立てである。

 

(巨額の配当金流出)

もうひとつ気になること、それは巨額配当による資金流出である。

2017~2019年の3ヵ年で約1600億円(RM=25.12円で換算)ものキャッシュが配当金

として支払われている。

これは年商3000億円規模の会社にとっては異常とも思われる額である。

支払先(株主)の1/3Tuneグループの持ち株会社であり、その主要出資者はTony Fernandes氏とKamarudin bin Maranun氏である。 

しかも配当に際して、資金を航空機等のセール&リースバックで捻出している。

 動機としては資金を他の事業に振り向けるということぐらいしか考えられない。

 

(コロナ禍に直面して)

 収益性に陰りが見える中での配当による巨額の資金流出。

 2019年末の手元資金は約650億円(売上の2.6ヵ月分程度)となり、純資産は約700億円

に減少した。 また系列会社からのリース料で吸い上げる力も弱まった。

ただ財務体質が弱まったとはいえ、AirAsiaグループの収益力の維持・改善がなされれば、事業存続にはほぼ問題のないところであったと思われる。

しかしコロナの影響は余りに大きく、財務余力の低下したAirAsiaの存続に黄色~赤色信号が灯る経緯に至っていると考えられる。

 

欧米では財務力を蓄積したRyanairWizzAireasyJetSouthwest等のLCCの雄が、巨大Flag Carrierより優位に立つ可能性を指摘されている中で、東南アジアでの雄が危機に瀕しているのは何とも残念な限りである。

但しCEOTony Fernandes氏は、既に250億円の融資を確保し、増資に向けて新たな出資者との交渉が進行中としている。 東南アジアLCCの先駆者として、真っ赤な雄姿が、力強く飛び続けることを期待したい。

 

以上