2021.6.08.

数字で読み解く日本のLCC(4)

  (その4) 国内線市場でのLCC、ANA/JALのLCC戦略

日本のLCC4社(現在3社)に係わる4回シリーズレポートの最終回です。

LCC各社の国内線実績の推移をみたあと、ANA/JALLCC戦略についても触れます。

  (注1)  ここでは国交省データ(全社43月の数値)をもとにしています。

       (但し搭乗率のみ各社決算期での公表値をもとに算出)

 

 

1 1. LCCのシェアは10

 

 左図は2020.3月期の国内線旅客102百万人)

 会社別シェアを示したものです。

 

 

 LCC10%を占め、Jetstar-JPeach+Vanilla)で  

 ほぼ分け合っています。

2 旅客単価と搭乗率; LCCは低単価・高搭乗率モデル

 

 

下図は国内主要会社の、2020.3月期の旅客単価と2019年度の搭乗率を比べたものです。

 

 

 

① 旅客単価; 旅客運賃収入(付加収入は含まれない)÷旅客数で算出

 

 

     LCC各社は7~8千円台と低い。

   但し付加収入(座席指定、手荷物、支払手数料、機内サービス等)を加味すれば、実質的には

   千円程度上乗せして考えるべきであろう。

 

 SKYLCCに準じる安さレベル11千円台)である。

 

 

    主要2社は15千円台、ビジネス客が多い(北九州線等)と考えられるSFJが約16千円、

   ADOとソラシドは14千円台。

 

 

 

② 搭乗率; ここではコロナ前の2019年度値(会社により決算期が異なる)を採用。

 

 

     LCCSKY80%超と高く「低単価x高搭乗率」のLCC事業モデルといえる。

 

   ・  大手2社と中堅3社は「高単価x低搭乗率」のFSC事業モデルといえよう。

3. 収入と旅客の推移;

下表はLCC4社の国内線運賃収入と旅客数の推移を示し、グラフは国内線旅客数推移を図示したものである。

 

  2014.3月期以降はJetstar-Jが常にTopシェアを占めてきた。

 

  2019.3月期にはPeachVanillaの合計値でJetstar-Jに並んだが、2020.3月期には再びJetstar-Jより下回った。

4.  コロナ前後の変化; ネットワーク拡大のPeach vs 今は縮小Jetstar-J

 

(コロナ前/後の旅客実績比較)

  PeachJetstar-J412月(9か月間)旅客数をコロナ前/後で比較すると;

Peachは▲53%の減少、Jetstar-Jはそれを大きく上回る▲72%の減少となった結果、

コロナ前には旅客数が少なかったPeachが逆転して、Jetstar-J1.36倍となった。

   

  (攻めのPeach、守りのJetstar-J

   6月現在、上記傾向差に拍車がかかり、Peachは感染状況に応じて便数を調整しつつも、将来を展望して積極的に路線拡大している。

     一方Jetstar-Jは減便規模は大幅で、廃止・運休する路線も多い。

 

     その差は、戦略と資金の差といえよう。 即ち、

Peach; ANAグループとしてのLCC拡大戦略に乗り、その資金に支えながら積極展開

Jetstar-J; 個社として、窮屈な資金事情下で、便毎の収益性と資金流出の回避に

        気を使った事業運営

からくるものと思われる。

 

     今後JALの資金テコ入れでどう変化するかが、注目したい。

5.ANAJALLCC戦略

 

ANALCC戦略)

  2020.3月期の数値Jetstar-Jを再び下回る)には、ANA本社が、新Peach展開の重点市場(資源活用の方向性)を「近距離国際線」にしたこと※も関係していると思われる。

※ 国内線の拡大はローカル線とし、幹線展開はむしろ抑制。

 

  しかし思いがけないコロナ禍が、国際線市場の拡大ばかりか運航の再開すら阻んで

  おり、復旧には時間がかかりそうである。機材と乗員は余剰化している。

ANAは国内線戦略を見直し、LCCの国内線優先拡大を経営改善の大きな柱とした。

 

  またコロナ後を見通すと、国際線でも市場の変化(ビジネス需要の縮小)が予想される

  ことから、中長距離低価格市場への展開→中長距離LCC設立へと動いている。
(この面ではJALを追う展開になっている。)

 

JALLCC戦略

   LCC展開でJALANAに大きく出遅れた。

近距離市場でのLCC展開は、将来を見通すと不可欠な事業領域といえるが、いわゆる自前のLCCは持たなかった。Jetstar-Jに出資(議決権1/3)し、資金繰りの悪化には追加出資もしたが、経営への主導権はない。

 

   ANAPeach子会社化を追うように、Jetstar-Jへの出資割合を50%に引き上げたが、依然主導権が確立したとはいえない(「提携の更なる強化」である)。

 

   その間、経営と運航品質で低迷する春秋航空日本(Spring-J)に支援を開始(2018し 

   たことで業績は上向いてきた。

 

    国際線中長距離を担うLCCZIP Air)を立ち上げ、コロナ禍の中で就航した。

 

  現在、Jetstar-Jの資金繰りへのテコ入れに追加出資を、そしてSpring-Jの子会社化を発表している。 前者はJALの経営主導権が、後者は中国市場への展開が、そして両社の使い分けが今後の課題といえよう。

     ZIP Airは中長距離国際線で、需要回復の波が寄せてくれば、当初の目論見以上の

     働きをするのではなかろうか。

 

                                                      以上(Y.A)