遅れていた羽田発着枠交渉、合意に至る=デルタの反対がアメリカンとユナイテッドを結束させて

 当分析は、CAPAが2016年1月19日に発表した 

 

Delayed Haneda slot talks produce agreement. Delta's divide on Tokyo unites American and United

 

をJAMRが全文翻訳したものです。 

 

 

 

 遅れていた羽田発着枠交渉、合意に至る=デルタの反対がアメリカンとユナイテッドを結束させて

 

19-Feb-2016


米国政府は、デルタの熱心な要請により、201628日の週に開催される筈だった、日本政府との交渉を一方的に延期した。交渉は、遂に合意に至り、これまでもカナダ、フランス、ドイツそして英国と言った国々のエアラインと旅客が享受して居た、東京/羽田空港での昼間帯の発着枠が漸く、米国=日本間の便にも付与される事になった。

 


米国運輸省とフォックス長官は、再び20161月にデルタが仕掛けた強烈なロビー活動を甘受して来た。デルタは羽田での取引について、ANA/ユナイテッド(UA)そしてJAL/アメリカン(AA)の提携関係がデルタに比べて、多くの恩恵を受けると言う観点から反対を続けて来た。デルタは、この二つの同盟が、デルタから地元東京の旅客を奪い、結果として、デルタはそこから他のアジアの各地に繋がって居る東京のハブから大々的な撤退を余儀無くされると主張して居る。実質的な事実関係から推定して、デルタは東京便が無くなる、そして結果として経済的恩恵を失う恐れのある都市を代表する政治家達をつついて、支援を取り付けようとして来た。政治的圧力は、とりわけこの大統領選の年には、また、主にデルタが主導した、反ノーウエジアン・インターナショナル、そして反湾岸エアラインのキャンペーンから、まだ先に進め無いで居る米国運輸省にとっては、手に余るものになって来た。

交渉は、2016216日、17日に延期され、米国は、いささか面目を失ったけれども、先に進む用意がある事を示した。これから先には、デルタのCEOリチャード・アンダーソンが日常業務から退き、経営執行役会長の地位を使って、より政治的なロビー活動に立ち上がるとしたら、更なる航空政治学的に不安定な事態がやって来るかも知れ無い。

 

合意は米国エアライン各社にとって妥当な結果となった

 

交渉は明らかに通常通り詳細にわたるレベルのもので、2016218日まで1日延長された。結果は羽田空港に於いて、昼間帯の発着枠を米国エアラインに5枠、日本のエアラインに5枠、開放すると言うもの。夜間帯の発着枠もそれぞれに追加された。国務省の発表に依れば、「定期便は早ければこの秋にも就航可能」との事だ。

デルタは直ちに遺憾の意思を表明し、正式な声明として「デルタは、本日米日両国政府が合意した東京・羽田空港を漸増的に開放すると言う最終合意に深く落胆して居る。東京・羽田は限られた競争しか無い、厳しく制限された空港のままである。デルタは、営業的な影響が計り知れない事を認識しつつ、現在のアジア路線構造と成田のハブの機能を可能な限り維持する事に全力を尽くす決意をして居る。デルタは、路線網について慎重に事態を評価し、適宜調整を行う所存である。」

アメリカンとユナイテッドは合意を歓迎して居る。当然ながら、米国側が欲したものより劣るが、使用出来る発着枠に限界がある以上、多分、米国にとって妥当なものだろう。

羽田空港の昼間帯にアクセスできる事になって恩恵を受けるエアラインは(主にアメリカンとユナイテッドだが、ハワイアンもそうだ)、デルタの最近の一連のロビー活動の間、比較的に大人しくして居たために、羽田の状況が概して否定的に見えて居ただろう。このエアライン各社は、最終的には、羽田の発着枠を拒否するのでなく、支持することで、より大きな公共の利益を守る為に運輸省が行動するよう、攻勢に出る事が必要となった。

アメリカンとユナイテッドはノーウエジアンと湾岸エアラインに対してのそれぞれの立場は維持して居るが、アメリカンは上海/浦東での発着枠を確保するために苦労して居る間、ユナイテッドを助けて居る。デルタは提携して居る中国東方航空のお陰で、発着枠を確保出来て居るのだ。デルタは、上海の制限から恩恵を受けている、その同じ時に、自分の利益にならない場合は、日本政府を制限するようロビー活動を繰り広げて居るのだ。

 

新規参入のLCCエアアジアジャパンは、日本から米国へ2019年までに就航すると意思表示して居る

 

新規参入のLCCエアアジア・ジャパンは、米日オープンスカイ協定で可能である筈の日本から米国への就航を2019年までに実現したいと意思表示して居る。然し、米国3大エアラインが、既にノーウエジアンに労働行為の問題で異議を申し立てて居るからには、米国のエアラインは、エアアジアジャパンの労働政策に何か異議を申し立てるべき問題を見出すのだろうか?

 

これまで大半はデルタが巻き起こして来た航空政治学的戦いは、今や、前例の無いレベルになって居る。デルタのCEOリチャード・アンダーソンは、既に、デルタをロビー団体である*A4Aから切り離して居り、その第一線から退いた身分と、就任した経営執行役会長の肩書きを使って、公共政策へのロビー活動を更に強力に推し進め、この国が、誇りを持って先陣を切ってきた、航空の自由化の時計を巻き戻す為に使おうとする事は大いにあり得る。

 

(訳注)*A4AAirlines for America Air Transport Association of America (ATA)米国最古、最大のエアライン同業組合

 

デルタは東京・羽田空港の計画に、競争相手がより多く利益を得ると主張し異議を申し立てて居る。

 

CAPAは、先に、デルタの東京・羽田の発着枠増加に対する懸念を探って見た。要約すると、デルタは(正当にも)この取引が競争相手をより利すると考えて居る。何故ならANA/ユナイテッド(UA)、そしてJAL/アメリカン(AA)は共同事業を組んで居るが、デルタには日本の提携先が無い。日本と米国の双方は、それぞれ同じ数の発着枠を付与され、日本ではANAJAL2社だけに配分される。

 

米国の発着枠は、アメリカン、デルタ、ハワイアン、そしてユナイテッドの最大4社の間で配分される。米国側では、エアライン各社に公平な配分がなされるとすると、アメリカンとユナイテッドは、日本の提携相手が更に発着枠を持つ事になるので当然ながら、有利になる。

 

ANA/ユナイテッド、そしてJAL/アメリカンは米国-日本間の市場で(一部その他のアジアの市場でも)連結した事業体として運航して居る。

 

東京都心に近いため、羽田は東京発着の旅には、優先される空港であり、成田空港はずっと遠い所にある。ANA/ユナイテッド、そしてJAL/アメリカンが羽田での便を増やす事になれば、当然、純粋東京発の旅客をより多く運ぶ事になるだろう。これは羽田発着枠をそれ程持たないデルタには痛手になる。デルタは米国-東京/成田間の便及び東京/成田とアジアの他地点を結ぶ第5の自由便を含む成田の事業に依存せざるを得ない。

 

デルタは東京の旅客をANA/ユナイテッド、そしてJAL/アメリカンに奪われることにより、ドミノ現象が始まる。即ち、東京の旅客が競合他社に奪われるためデルタは米国-日本間の便を止めねばならなくなる。然しデルタの便は東京以遠へ乗り継ぐ旅客も運んで居り、デルタが米国-日本路線便を止めると、送客する乗継旅客が減って、東京-アジア間の便も止めねばならなくなる。東京- アジアの便が減るという事は、残った米国-日本間の便にも多くの旅客が居なくなり、これらの一部もキャンセルせざるを得なくなる。

 

<関連記事参照>デルタ航空の「俺の道以外はダメな道」的姿勢が米国と日本の利益を危うくする=羽田便の交渉に於いて 21-Jan-2016

 

デルタは、この取引は進めるべきでは無い(現状維持)、または、デルタに成田の事業を羽田に移転するに充分な発着枠を与えるよう主張して来た。日本側及び米国側は前回、それぞれ羽田の夜間発着枠を4枠ずつ付与されて居て、日米両政府はそれを各エアラインに配分して居る。

 

東京/羽田空港発米国行き供給(週間席数、片道ベース):2011919日〜2016725

Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG

 

 夜間帯から昼間帯への変更は、新たな商機への扉を開き興味深い発着枠配分を促す

 

日本政府はこの4枠の夜間帯羽田発着枠を合計6枠の羽田枠に変えると提案して居る。即ち夜間帯1枠と昼間帯5枠である。これで2枠の純増となるのだが、夜間帯から昼間帯への変更は、新たな商機への扉を開き、興味深い発着枠配分を促進する。一部夜間帯の枠は無くなるが、両国の航空当局がそれぞれ、どの様に新しい羽田発着枠を配分するか公式の言及はまだ無い。あるエアラインは、新たな合意の下で、現在の夜間帯便を単純に昼間帯に移動させて、競争相手より上手く使うと主張するかも知れない。

 

羽田便は、到着、出発時刻の双方で地上交通機関との連絡が容易で、また、より多くの米国内陸都市への羽田発着の乗り継ぎが出来る様になる。現在の夜間帯枠では米国中部、東部への便はとても維持出来ない(アメリカンは羽田-ニューヨーク/JFK便を休止して居る)。現在の羽田発着枠は、全てホノルル、ロサンゼルスそしてサンフランシスコに使われて居る。

 

デルタにとって、現在の成田のハブを羽田に移行する為には、羽田に於いて第3番目に大きな昼間帯国際線エアラインとなる数の発着枠を持たねばならず、また、昼間帯としては、JALが付与され、全世界への路線網に使って居る枠とほぼ同じ数を持たねばならない。これは明らかに途方も無い要求で、交渉の緒に着く事さえ出来ないものだ。

 

この事は、デルタの本当の東京での大詰めは一体何だったのかと言う疑問を呼ぶ。察するに、湾岸エアラインの拡大に対する声高な反対の目的が曖昧なのと同様で、単に、競争が拡大することの衝撃を少しでも遅らせようとして居るのではないだろうか。

 

東京/羽田昼間帯(06:0022:00)の国際線発着枠の数、ANA/JALとデルタが成田の事業をそのまま羽田に移した場合の理論値(赤):2016111日~17 

Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG

 

デルタの議論の鍵となるのは羽田の拡大が同社の成田のハブを脅かすというものだ。ユナイテッド航空はデルタ以外で唯一、成田にハブ機能を与えて居る米国の(或は世界の)エアラインだが、順次路線網を縮小して来た。2016年には、成田=シンガポール線から撤退し、ユナイテッドに残る成田からの第5の自由のデイリー便はただ一つとなる。

 

ANAJALは、デルタが東京で経験して居る様なハブ解体の問題に直面することは無い。ANA JALは羽田の定期便を増やし、同時に成田の便も増強して居る。成田のハブ機能は維持しつつ、羽田に第2の国際線ハブを構築し始めて居る。

 

短期的には、ANAJALは成田=米国路線便を羽田に移すかも知れない。中長期的にはANAJALの戦略計画は、米国を長距離の拡大の好機であると見なして居る。羽田には近い将来、更に発着枠が増加するのを望めない以上、ANA JALは成田から更に米国路線便を増やすだろう。

 

ANAJAL、羽田及び成田からの米国行きデイリー便平均本数:2006年〜2016 

 Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG

 

デルタの強力なロビー活動で米国運輸省は交渉を延期

 

20161、月デルタは羽田に関する交渉に反対する強力なロビー活動を繰り広げた。デルタは同社の東京線を持つ全ての米国の空港に、もし羽田の交渉が成立すれば、デルタは便を廃止しなくてはならないかも知れないと話した模様だ。デルタは自社にとって悪いことを、あたかも米国にとって悪いことの様に見せようとしたのだ。勿論、デルタから失うものは他のエアラインから獲得するもので相殺されると言うことは黙って置いて、デルタが撤退するとその代わりは充分に補填されないのではないかと感ずる空港や地方に、複雑な分析を強いて居るのだ。デルタの「ワシントン大行進」は甲高く、一方他のエアラインは羽田での拡大について積極的に支持を求めようとはしなかった。これにより、米国運輸省は、ほんの数日前に交渉の中止を通告することになった。

 

デルタの作戦は滑りやすい坂道の議論に依拠して居る。即ち、デルタは羽田が開放されれば、自社の東京での存在感は縮小すると主張して居る。然し、これは事実に反して居る事も考慮に入れる必要があって、デルタは羽田に変化が無ければ東京での存在感を減らして行く可能性が高いのだ。デルタは便を間引いたり、小型化で供給を減らしたりして、ずっと東京での存在感を縮小して来て居るのだ。東京成田と米国間のデルタ便は2010年の、ほぼ毎日11便から2016年には毎日8便に減って居るのだ。

 

また、デルタは東京便に使っている747の退役などで更なる供給減を発表して居る。

 

デルタ(ノースウエストを含む)の米国=東京/成田と東京/成田=アジア路線便の平均日次発着枠ペア使用数:2006年〜2016

Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG

 

驚く事では無いが、デルタのロビー活動は、後に尾をひく間違った印象を残して居る。民主党の議員で、セントポール市(空港はミネアポリス/セントポールで、デルタが毎日東京便を飛ばして居る。)のベティ・マッカラムは「我々は、ミネソタでのビジネスに影響を与える様な、エアライン業界の勝者と敗者を決めるのを日本政府に任せる事の無い事を確認したい。」と語って居る。日本が米国での勝者、敗者を決めて居ると主張するのは難しい事だ。路線を認可し、発着枠を配分するのは米国の運輸省であって日本政府では無い。日本政府は、多少制限が有るけれど、ひとまとまりの発着枠を提供して居るだけで、それをどう配分するかは米国が決める事だ。

 

アメリカン航空とユナイテッド航空は、当初、デルタのぶち上げる主張に対抗しようとはしなかった

 

デルタは主張を繰り広げるのが、より容易な位置に居た。同社は羽田の取引が進むと路線が廃止され、職が失われるという論法でキャンペーンを展開した。アメリカンやユナイテッド、そしてハワイアンの立場の様に、何かを獲得出来るかも知れないと言うより、何かを失うかも知れないと警鐘を鳴らす方が、しばしば支持を得易いものだ。

 

最終的には、米国の空港で、羽田の昼間帯の便を得られるのはほんの僅かであり、それは、羽田の欲しいエアライン各社は、結局は羽田への道を獲得できないかも知れない空港と、その地域の政治家からも支持を必要とする事を意味する(これらの空港は、羽田の取引の、もっと大きな恩恵が、航空自由化と言う概念に対してあるのだと考えて居て欲しいものだ。それは、ちょうど米国の3大エアラインが反湾岸エアラインのキャンペーンを張った際に、多くの人々がこれに反対した根拠なのである)

 

デルタの、「定期便を失う都市」と言うキャンペーンには明白な結末がある。これは、成田便を羽田に差し替える利点とか、羽田の深夜便を昼間帯に切り替える利点、などと言う分かり難い考えとは対照的である。航空業界の中でさえ、これらの利点は、便がまるまる無くなってしまう危険に比べ、そう強烈には見えないかも知れない。

 

最近の公的ロビー活動の中でも、デルタのシアトル=東京/羽田発着枠の再配分について米国運輸省に対して申告された内容は、色とりどりで楽しいものだったが、一般の関心は殆ど呼ばなかった。アメリカンの2015年羽田キャンペーン(ハッシュタグ#LetAAFlyHanedaにある)も多くの大衆的な関心を得る事はなかった。

 

その他のキャンペーン、ノーウエジアン・インターナショナルと湾岸エアラインに反対するものは、3大エアラインを団結させる結果となった。これにはA4Aによるロビー活動は含まれない。今やデルタはA4Aを脱退したので、羽田に関する提案を支持する事に対して内部の意見の不一致は無いかも知れないが、デルタの独自のキャンペーンが実を結べば、多分アンダーソン氏による脱退が正しかったことになるのだろう。そして、また、A4Aの全てのメンバー(アラスカ、ジェットブルー、サウスウエスト、そして各貨物航空会社)が羽田の取引から直接恩恵を受ける立場に有る訳では無い。然し、アラスカとジェットブルーはエミレツの提携社であり、そして貨物航空各社はオープンスカイ協定から恩恵を受けて居るので、リスクはもっと高いと思われるにも関わらず、湾岸エアラインの議論には、加勢して居る。

 

アメリカンとユナイテッドを併せれば、米国都市から東京へ、提供出来る便は、デルタのそれより多くなる。アメリカンとユナイテッドは米国の9都市から東京への便を提供し、そのうち3都市(ホノルル、ロサンゼルス、そしてニューヨーク/JFK/ニューアーク)にはデルタの便もある。デルタが東京への唯一の運航エアラインである米国都市は、わずか5つである。羽田の取引の利点は、アメリカンとユナイテッドの共同事業相手であるANAJALだけが飛んで居る目的地(ボストン、サンディエゴ、そしてサンノゼなど)を加えると、更に大きくなる。

 

米国エアラインによる東京行きの便を持つ米国都市(羽田/両空港と明記したもの以外は成田空港):2016228日〜35 

Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG

 

 小さな、然し強烈なジェスチャー、アメリカンは上海発着枠問題でユナイテッドを助ける

 

よく有るように、保護主義は重商主義の中に根付いて居る。デルタは羽田空港への「公正で公平なアクセス」を求めて戦って居るが、飛行時間で2時間離れた上海/浦東空港ではきわめて違ったシナリオが繰り広げられて居る。201411月、ユナイテッドはサンフランシスコ=上海線のデイリー第2便目を追加する意向を表明したが、営業的に有効な発着枠を得るのが難しく、現在まで3回もの開設延期を余儀なくされて居る。

 

ユナイテッドのサンフランシスコ-上海/浦東線第2便目に関する経緯:2014年〜2016 

Source: CAPA - Centre for Aviation and US DoT

 

ユナイテッドは、3度目の延期申請の中で、「ユナイテッドは引続き上海の運航に望ましい発着枠を求め続けて居るが、残念ながら現在に至っても確保出来て居ない。」と言って居る。他の空港に比べ、北京と上海は収容力が逼迫した空港である。然し、発着枠の実態は不透明である。ユナイテッドが201411月に発表した便の就航に対して、未だに上海の発着枠を得られない一方で、デルタは20151月に(ユナイテッドより後に)発表した。 サンゼルス=上海/浦東便の枠を獲得出来て、20157月には運航を開始して居る。

 

デルタは新たな発着枠を獲得したのか、スカイチームの盟友であり、上海を本拠地とする中国東方航空と何か細工をしたのか定かでは無い。何れの場合も、羽田に対する「公正で公平なアクセス」を擁護するデルタが、一方、上海では前述の様な環境にある。これはデルタには好都合なのである。デルタの、東京/羽田に「公正で公平なアクセス」をと言う交渉の主張点とは矛盾するが、デルタがユナイテッドの上海/浦東での発着枠獲得を助ける努力をしたと言う話は聞いた事が無い。実際には、中国東方が、デルタの支援を受け、ユナイテッドの発着枠獲得を阻む様、ロビー活動して居るのは、よく知られた秘密である。ユナイテッドが、枠の獲得に苦労して居る一方で、オーストリア航空と英国航空は、両社とも現在は、中国東方の競争相手であるにもかかわらず(中国東方とユナイテッドの関係程では無いけれど)、上海/浦東の(ピーク時間帯を含む)発着枠を手に入れる事が出来て居る。

 

上海/浦東は、2015年、新たな滑走路の完成に伴い、新たな発着枠が使用可能となったことから、目覚ましい成長を経験して居る。この滑走路から生まれる新たな発着枠は、数年間で段階的に使用可能になると理解される、即ち、今は、配分される新たな枠が存在する事を意味する。上海/浦東の活動実績は、2015年に国際線の12.1%を含み、全体で11.5%上昇して居る。

 

これは、比率的には国際線便の方により多くの枠が配分された結果、国際線で国内線より早い成長が見られることを示して居る。

 

ユナイテッドの発着枠問題は、枠が無いからと言う理由ではあり得ず(枠は有るのだ)、寧ろ、ユナイテッド以外のエアラインに配分された為と言う事だろう。

 

上海/浦東空港の月間国際線航空機の活動実績:2010年〜2015 

Source: CAPA - Centre for Aviation and airport reports

 

アメリカン航空、ユナイテッドを支持する回答を提出

 

20161月のユナイテッドの延期申請に、アメリカン航空はユナイテッドを支持する回答を提出した。ユナイテッドの上海毎日2便目に関して、第3者から反応が有ったのは初めてだった。アメリカンは以下の様に記して居る。「アメリカンは、ユナイテッドのこの期間の就航延期申請を強く支持する。中国で、営業的に実効性のある発着枠を取得する過程は引き伸ばされて居る可能性がある。

 

よって、米国のエアラインにとって、米国と中国の間に、特に、中国の2大都市への路線を追加する事は困難である。我々は、米国政府にこの問題を可及的速やかに申し入れる事を要請する。」(アメリカンは、自社のシカゴ=北京線で発着枠問題に遭遇し、開設直後にキャンセルせざるを得なかった。)

 

ユナイテッドの申請と提案は、どの段階でも異議を挟まれる事は無かった。しかし、ユナイテッドの最後の要望(20158月)以来、デルタはアメリカンのロサンゼルス=東京/羽田線(デルタの以前の羽田枠を使った)の遅れた開設に異議を申し立てて居る。アメリカンは日本の当局の手続きの遅れに直面して居て、デルタはこの事を確かに知って居たが、ともかく嫌がらせをけしかけた。だから、これは、デルタは発着枠問題で、アメリカンとユナイテッドと戦って居ると言う背景の中でアメリカンはユナイテッド支持の意見を提出したのだ。

 

アメリカンとユナイテッドは、サンフランシスコ=上海の路線で直接は重複して居ない。然し、間接的には、米国乗り継ぎ便の事を考えると、して居る。アメリカンとユナイテッドは競争相手である一方で、彼らはデルタに対抗する事で、より多くを得る事になる。即ち「我が敵の敵は我が味方」である。アメリカンはこの意見提出を、もっと前にデルタが何か言う機会を先に潰す為に出来た、或は単に自分が正しい事を示す為に出来た筈だ。またデルタはユナイテッドの上海線の件については沈黙を守り続けて、賢く、威厳を保つことが出来ただろうに。

 

ユナイテッドの201610月までの新たな就航延期で、開設提案をしてから早くも2年になる。然し、その時になっても、開設できると思うのはまだ楽観的であるかも知れない。

 

アメリカンとユナイテッドは、デルタが中国のオープンスカイを後押しするのを阻止する身構えかも知れない

 

ユナイテッドの上海/浦東の発着枠での苦闘、そして現在の、また将来にわたり米国エアラインが中国で直面する発着枠問題は、まだとても諍いの頂点に来たとは思えない。アメリカンとユナイテッドが、米国と中国の間の航空自由化問題で、喧嘩を挑む可能性が強く懸念される。デルタは、オープンスカイを擁護すると思われる。これは、デルタがこれまで、他の場所で見せてきた保護主義的戦法からすると驚きと映るかも知れない。然し、オープンスカイでデルタは中国東方と共同事業を構築する事が出来て、規模の利を得られるのだ。然しまたこれは市場の成長率を鈍化させる。

 

アメリカンとユナイテッドは、発着枠を確保するのが困難なのに対し、デルタはつい最近もそうで無かった様に、機会が均等でない事に懸念を抱いて居ると思われる。また両社は提携先も持って居ない。アメリカンにとっては、ワンワールドの盟友が中国本土には居ない(海南航空とは、2社間提携をして居るが、最近は大きな動きが無い)。一方でユナイテッドは中国国際からの提携へのアプローチをすげなく断って居る。米国=中国本土の市場では、中国東方とデルタを併せると、ユナイテッド或は中国国際(最大の2社)に比べ、パーセントで2桁も大きい。

 

中国から米国への供給(週間席数、片道ベース):2011919日〜2016718日) 

Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG

 

展望:アンダーソンCEOは引退して更なるロビー活動に専念する可能性あり。エアアジア・ジャパンは米国を狙う。米国運輸省は消費者の利益を代表する立場に立ち返る必要がある。

 

デルタのCEOリチャード・アンダーソンが引退するという発表を受けて、アンダーソン氏が決闘を挑んで来た業界の対抗馬達から、安堵のため息が漏れたかと言う質問があった。実は、そうではなく、今後の心配があるかと尋ねるべきだったかも知れない。

 

アンダーソン氏はデルタを去らないのだ。彼は経営執行役会長になる。因みに、デルタの取締役会のトップは会長であり、経営執行役会長では無い。アンダーソン氏は、エアラインの日常業務からは手を引いて、その代わり、より政治的なプロジェクトに専念するのかという疑問が残る。

 

国際定期航空操縦士協会(ALPA)のリー・モーク議長(デルタのパイロットでもある)は、2014年末に役職を退いて居るが、彼の反湾岸エアライン・キャンペーンは彼のロビー団体「公平な空を求める米国人達」を通じて運動の段階を進めて居る。

 

一方で、名古屋を本拠地とする、新規参入LCCであるエアアジア・ ジャパン(マークII)は高密度A330による域内の定期便を2018年に開始する計画で、2019年には東京/成田=ホノルル線、2020年にはシアトル又はサンフランシスコ線を開設するとして居る。これは可なりの準備期間であり、詳細は変わるかも知れないが、LCCとして北米に飛ぶ明確な意志がある。エアアジア・ ジャパンは米国=日本間のオープンスカイ協定に基づき実現が可能な筈だが、もしエアライン各社がノーウエジアンでやったのと同様にエアアジア・ ジャパンに、問題を見つけ出せば、米国からの邪魔立てに直面する可能性がある。問題が同じか否かは別として、彼らは純粋に保護主義者である事からの影響があるだろう。

 

興味深いのは、米国エアラインが異議を申し立てる問題が生じると、如何なる反対運動もデルタが主導する傾向にある事だ。アメリカンとユナイテッドは、米国=日本間交渉を支持したが、エアアジア・ジャパンと似た性格を持つ(従って異議申し立ての可能性がある)ノーウエジアンに反対するロビー活動には参加して居る。

 

未だに解決しない、湾岸エアラインとノーウエジアンの問題は言わずもがなだが、エアアジア・ジャパンは、米国運輸省に波風をもたらす可能性のある、新時代のエアラインとして、これが最後の例とはとても思えない。

 

運輸省が失速する事は、かつてエアラインを悩ませて来たが、今や、それは外国政府の複数の階層と、消費者の間にまで拡がる問題となって居る。CAPAが最近、ノーウエジアンと米国運輸省の間の戦いについて書いた様に:

 

同社の、子会社ノーウエジアンエア・インターナショナル(NAI)に運航させて、コークからボストンへの便を追加する意向は、未だに実を結んで居ない。同社は依然として、NAIの申請した米国の外国エアライン免許に対する米国運輸省の認可を待って居るのだ。一方で、アナリストとの電話会議でキヨス氏が語った事に依れば、この路線開設が遅れて居る事に「アイルランド人社会は、本当に怒って居る」。

 

ノーウエジアンはまた、同社の新たな英国子会社、ノーウエジアンエアUKの同様な申請に対する米国運輸省の認可を待って居る。キヨス氏は、アナリストに対して、彼は、まさか英国政府が米国の運輸長官アンソニーフォックスに面目を踏みにじられたがって居るとは思わなかった、と述べて居る。

 

<関連記事参照>ノーウエジアンエア、黒字回復し積極的な長距離路線拡大を示唆。運輸省の支援が望まれる 2016212

 

国際線の問題では、米国運輸省は、その立場を自国のエアラインの気分や希望によって調節して居る様に見える。これの意味するところは、エアラインが、一般の消費者指向の政策でなく、勿論、彼ら独自の会社の利益の上がると予想される政策を支持して居ると言う事である。

 

運輸省が、そしてそれが代表する消費者が必要とするのはエアラインを規制する政策の枠組であって、それが規制すると想定されて居る、企業団体によって形作られたものでは無い。運輸省は、これまで航空自由化や、オープンスカイ政策を先導して来たのだから、今や、これまで獲得して来た土地を護るべきである。

 

結局のところ、運輸省が初めて世界中にオープンスカイの概念を推進し始めた時、米国の大手エアラインの殆どは、強くこれに反対した。

 

羽田は、たった一握りの発着枠の問題で、成長も限られた市場の話だ。そして日本は自国のエアラインの利益が危ぶまれる時は、とても長距離路線市場自由化のリーダーとは呼べる様な国ではない。

 

然し、更に重要な、そして更に大きな消費者への恩恵をもたらすのは、米国3大エアラインの保護主義的主張を叩き潰し、禁じられて居ないノーウエジアンや、湾岸エアラインそして他の誰にせよ(エアアジア・ジャパンでも中国の新規エアラインでも)、次に続く者たちの成長を認める事だ。

 

あやふやな政策枠組は、消費者の選択の幅を狭め、将来、更に難しい状況を招く事になるだけだ。現在の消費者の利益こそが、政策を牽引すべきなのである。現在、力に溢れ、大きな利益を上げて、彼らだけで世界のエアラインの利益の半分近くを占めて居る様な、米国の大手エアラインが、全ての最前線で現状を維持しようとする事には、公共政策の観点から見て、論理的な価値が殆どないのである。 

 

以上