航空機に関する技術トピックス  大きく変貌する民間航空機 製造業界(1)

 

(コラム)

 

航空機に関する技術トピックス

 

大きく変貌する民間航空機 製造業界(1 

2018626
航空経営研究所 主席研究員 稲垣秀夫
 

世界の2大リージョナルジェットメーカーがエアバス、ボーイングの傘下に入った 

カナダの総合輸送機械メーカーであるボンバルディア社のリージョナルジェット(地域航空機)CS100/300の事業がエアバス社の傘下に入った。開発を終えたばかりのCS300型機は座席が多く、燃費が良く、航続距離も長いので評価が高い。787/A350並みのカーボン構造というのが売りである。CS300は横5列の座席配置でリージョナルジェットの看板は掲げているが、航続距離が十分で、その最大座席数はA320の短胴型A319の座席数の下限に届いた。これまで狭胴機がカバーしていた路線に投入できる。これはエアバスにとっては脅威である。さあこれからというところだが、膨らんだ開発費がボンバルディア社の負担となったようだ。カナダ政府の援助を理由にCS100/300の不当廉売を提訴していたボーイング社を尻目にエアバス社がさっさと提携してしまった。これを引き金としてリージョナルジェットセグメントの主たる競争相手であるブラジルのエンブライアル社も時を移さずしてボーイング社の傘下に入った。ボーイング社とエアバス社という世界の民間航空機製造の2大巨頭に対して、将来は微力ながら競争相手になりうると思われていたボンバルディア、エンブライアルがあっさりと大手2社の軍門に下ったのだ。世界の民間航空機メーカーの勢力図のほとんどを占めている大手2社体制はこれで一層揺るぎないものとなるだろう。 

ところが、どんなに強固に見えても思わぬ伏兵は存在する。中国やロシアのメーカーの勢いがすさまじく、新興国を中心とした民間機マーケットに喰い込みそうなのである。このレポートではこれら新参の航空機メーカーの現状を分析し、今後の業界を展望したい。  

すさまじい勢いの中国メーカー COMAC3機種を同時開発 

多くの読者にとってCOMACというのは初めて聞く名称かもしれない。中国の2大航空機メーカーの一つで、上海に本社を置く「中国商用飛機:Commercial Aircraft Corporation of China, Ltd」の略称である。ボーイング737サイズの狭胴機C919 およびリージョナルジェットAR21を独自開発し、同時に、ロシア企業との合弁で広胴機CR929の開発にも昨年着手した。日本にいると信じられないことだが、何と未完成のジェット旅客機3タイプを同時に開発している。それとは別にボーイング社と共同で737MAXについて塗装や試験飛行など製造の最終工程を担う工場を杭州に近い舟山開発地区に保有し、今年中には出荷を開始する予定である。このCOMACは中国政府と上海市、および「中国航空工業(AVIC)」の3者が株式の80%余を保有し、上海市が主たる管理者となっている国営企業である。ホームページを見ると、その設立趣旨は中国の企業として米国のボーイング社や欧州のエアバス社と比肩されるような民間航空機製造事業を行うというものである。 

ちなみに株主の3番目に出てくるAVICは北京に本社を置く中央政府管理の国営企業で、COMACと並ぶ中国の2大航空機製造会社の一社である。COMAC とともに2008年に国内航空機製造事業を再編し設立された歴史の浅い企業である。中国国内で従来から航空機やその部品を製造している会社を傘下に置き、民間旅客機(輸送機)を除く軍用航空機や宇宙ロケットを始めとする航空機の製造事業全般をグループとして担っている。尚、中国が天津でエアバスとの共同事業として行っているエアバスA320の組立事業は民間航空機の製造事業だがこれはAVICが実施している。COMAC がボーイング社と合弁事業を進めていることから、これと距離を置くためにAVICの傘下に置いたものと思われる。  

COMAC C919 好調な販売 

COMACに関して最近注目されることは、まず最初に、中国の航空会社やリース会社を顧客として狭胴機C919の受注が急増していることである。昨年8月から今年2月までの6か月間に受注残機数が185機増加し781機に上っている。ジェット旅客機の受注総機数でエアバス社、ボーイング社のベストセラー最新鋭機A320neo, 737MAX, 787, A350に続く5番目の位置にいるのである。くどいがC919は完成前の機種なのである。この機体は前述のとおり737A320クラスと同じ客席サイズのマーケットの機種である。中国企業のC919選定には中国政府の後押しもあろうが、推定機体価格が欧米2機種の半額程度と巷間言われていることは今後の販売競争を占う上で大きなポイントとなろう。  

カーボン機開発を進めるロシア企業 

次の注目点は、広胴機CR929の開発において、強化プラスチック部材の供給会社を決定したという最近のニュースである。それ自体はとりたてて注目を集めるようなニュースではない。CR929の開発でCOMACは胴体を分担し、ロシア側企業のユナイテッド航空機会社(UAC)は翼を分担する。それぞれが担当する部分はいずれも最新であるカーボン構造となる予定である。UACは独自開発の737クラスの狭胴機MC-21をカーボン製の翼としてすでに開発を進めており、この機体が型式証明を得てマーケットにデリバリーされると狭胴機としては世界で初めてのカーボン機となり、軽量化により狭時 機の燃費は更に改善されるだろう。ちなみにMC-21の公式価格はA320,737の約8割程度となる模様である。エアバスもボーイングも最先端の技術で作られた広胴機を製造しているが、最も売れ筋の機種である狭胴機、エアバスA320neo1988年、ボーイング737MAXに至っては1968年の初就航(ただし、翼は1997年にアルミ製だが新設計に変更)である。20年以上昔のアルミニウム金属構造の古い機体である。設計の先進性は主に機体構造、エンジン、アビオニクス(電子航法・自動操縦装置他)3分野の中に見出されるが、中国やロシアのメーカーはまず機体構造で最先端技術を自らのものにしようとしており、エンジンやアビオニクスの分野では当面、自国製ではなく欧米の会社から先端技術を調達しようという戦略のようだ。

                                   2に続く

併せてお読みください。

大きく変貌する民間航空機 製造業界(2

完成に立ちはだかる壁

(複雑さのマネジメント)

(型式証明は国際ルールで)

時間はかかるだろうが中国機C919は早晩完成する