LCCの大変貌

この原稿は、ビジネスジャーナル11.7 (http://biz-journal.jp/2016/11/post_17106_3.html

 

)11.9http://biz-journal.jp/2016/11/post_17120_3.html)2回の下原稿となったものです。

 

LCCの大変貌

                        2016117

航空経営研究所 副所長 牛場 春夫

 

 1971618日に、ダラスからサンアントニオとヒューストンのテキサス州内の小さな国内線路線に就航したサウスウエスト航空が、世界のLCCのパイオニアであると言われている。サウスウエストは、1997年に、2年前に開設した直販Webサイトiflyswa.comを現在のsouthwest.comにサイト名を変更した。LCCの営業にとってのライフラインとも言うべきオンライン直接販売が本格的に始まったのがsouthwest.comからだと見なせば、この年(1997年)が世界におけるLCCの始まりと見ても良いだろう。1997年と言えば、今や世界のオンライン旅行会社市場のおよそ60%以上を席巻してしまった、エクスペディアやプライスライン(ブッキング・コム運営会社)の米OTA(オンライン旅行会社)2社が営業を開始した年(1996年〜1997年)とぴったり一致する

 

 サウスウエストは、1973年以来現在まで、その間に世界の航空会社の経営に甚大な影響を与えた燃油費の異常な高騰が一時あったにもかかわらず、一度も損失を計上することなく43年間も連続して利益を計上し、世界最大のLCCに成長した。サンアントニオで小規模な航空会社を経営していたロリン・キングと今や伝説的航空人となってしまった弁護士のハーバート・ケレハーが共同で開発したLCCビジネスモデルは、低コスト+低運賃を武器に今まで航空機に乗ったことがない人たちを引き寄せて瞬く間に世界の航空市場に広がった。そして、LCC市場規模は全世界の航空旅客市場の四分の一(25%)を占めるまでに拡大した。しかし、LCC誕生後20年間でそのビジネスモデルは大きく変貌している。元祖のサウスウエストでさえ、今では米メジャーのアメリカン、デルタ、ユナイテッドと肩を並べる四大メジャー、あるいはビッグ4+1などと呼ばれて、フルサービス・キャリア(FSC)とあまり変わらない航空会社に変身しているくらいだ。

 

 ケレハーたちが開発した(初期の)LCCビジネスモデルは、航空情報調査機関の世界的大手であるCAPACentre for Aviation)によれば、以下の10ケ条から成り立っている。

高密度客室仕様(ハイデンシティー・キャビン・コンフィギュレーション)

単一クラス(エコノミー・クラス)編成

高稼働航空機運用

単一航空機編成(B737ないしA320に代表される一本通路狭胴機フリート)

低運賃(含む格安プロモーショナル運賃)とオンライン直販最優先

二地点間直行路線運航(ポイント・ツー・ポイント=P2P路線便)

短・中距離路線運航

ノーフリル・サービス(手荷物・座席指定・搭乗順位・機内食・機内映画/音楽・機内Wi-Fiなどの付帯サービス有料化)

二次的空港(セカンダリー・エアーポート)離発着

最短空港駐機時間(最短空港折り返し時間)

 

 この“LCC10ケ条が全て変貌しつつある。なぜ変貌しているのか?答えは至極単純明快だ。一言で言えば、LCCが低運賃志向の需要を開発し尽くしてしまったからだ。つまり、フルサービスの航空便を利用していた人たちのうちで低運賃志向の人たちや、欧州やアジアでは長距離バスを利用していた出稼ぎ労働者たち、それに加え未だ航空機に乗ったことがない人たちが安い便利なLCCを使い始めたのだ。20年かけて一通りこれらの新規や転移需要の掘り起こしが終ってしまうと、LCCは成長を持続させるために新たな市場の開拓に乗り出さざるを得なくなったのだ。新たな市場とは、ビジネス旅客と長距離路線の2つである。

 

【ビジネス旅客の獲得】

 低運賃志向の需要を開拓し尽くすと、LCCは旅客単価の高いビジネス旅客市場への参入を開始した。そこはFSCの牙城だ。LCCは、ビジネス旅客に乗ってもらうためにハブ空港への乗り入れを開始した。直販最優先の販売戦略を改めて、旅行会社経由の販売も開始した。旅行会社経由で販売するためには、GDS(グローバル・ディストリビューション・システム)(注)にも参加し始めた。

(注)GDS(グローバル・ディストリビューション・システム)とは、世界の航空会社を乗り継ぎ便の複数の飛行区間を含めて瞬時にリアルタイムで予約できるシステムである。高い利用料の支払いを嫌ってGDSに参加していないLCCも多い。)

 2015年に年間旅客数1億人を運んだ欧州最大のLCCであるライアンエアーは、追加料金なしで予約変更ができるビジネス・プラス運賃を導入し、GDSはおろかグーグルの航空便検索である「フライト・サーチ」にまで参加した。直販最優先のマーケティングからの決別である。

 

 その上で、ライアンは客室の快適性の改善にも乗り出し、座席ピッチ32〜34インチのプレミアム・エコミークラスを導入した。他のLCCでも座席ピッチの広いプレミアム・エコノミーやビジネスクラスを導入し、単一クラスから二クラス制に客室仕様を変更している。米LCCのジェットブルーは、フルフラットのビジネスクラスである「ミントクラス」を米大陸横断線に導入した。スクートは31インチのスタンダードシートに加え34インチのスーパーシートを導入、エアアジアXのビジネスクラスにはフルフラット座席が設置されている。

 

【長距離路線への進出】

 法人需要の獲得に加え、LCCの幾つかは長距離路線を開設している。長距離路線を運航するLCCは、A330型機やB787型機の航続距離が長い中型機を導入している。北大西洋路線ではノルウエーのノルウエージアン・エアーシャトル、アイスランドのWOW、カナダのウエストジェットが欧州と北米を結ぶ路線に就航している。長距離路線でもLCCの運賃はどこよりも安い。ノールエージャン・エアーシャトルは、欧州=米西岸路線の今冬の往復運賃を450ドル(約45,000円)に設定した。WOWは、1125日から開設するレイキャビック(アイスランド首都)=ニューヨーク線を、なんと片道最低99ドル(約9,900円)で売り出す。そして、この便を使用してWOWの欧州域内路線へ乗継ぐ運賃は片道149ドル(14,900円)で販売する。ノールエージャンは、オスロ=バンコック直航便も運航している。ジェットブルーは、2019年に導入する航続距離の長い航空機(A321LR)を使用して大西洋路線の乗り入れを計画していると噂されている。

 

 アジアでは、エアアジアX2012年に運航停止した欧州線を復活、1030日からクアラルンプール=イスタンブール=バルセロナ線を開始する。スクートは、シンガポール=アテネ線を20176月から開始する。このアテネ線は1万キロ以上のLCCが運航する世界最長路線となる。スクートは、アテネ線に投入するB787型機に38インチ座席ピッチ18席のビジネスクラス「スクートビズ」を導入して2クラス編成とする。

 

LCC世界Top 10ランキング + 気になる番外LCC

順位

L C C

国 籍

供 給

シェア%

週間席数

(千席)

運航機数

狭胴機

中型機

1

Southwest

US

13.30

3,697

704

 

2

Ryanair

Ireland

9.35

2,598

360

 

3

easyJet

UK

6.14

1,708

234

 

4

IndiGo

India

3.92

1,090

118

 

5

Lion Air

Indonesia

3.31

919

111

2

6

JetBlue Airlines

US

2.98

827

222*

 

7

Gol

Brazil

2.82

785

121

 

8

Vueling

Spain

2.27

633

109

 

9

Pegasus Airlines

Turkey

2,21

616

73

 

10

AirAsia

Malaysia

2.11

588

78

 

  以 下 番 外

11

WestJet

Canada

1.97

548

114

4

13

Norwegian Air Shuttle

Norway

1.90

530

56

5

31

Norwegian Air International

Norway

0.84

234

45

5

50

AirAsia X

Malaysia

0.46

128

 

22

53

Jetstar Japan

日本

0.42

117

20

 

54

Peach

日本

0.41

115

17

 

70

Scoot

Singapore

0.30

84

 

12

81

Vanilla Air

日本

0.16

45

9

 

85

WOW Air

Iceland

0.13

37

8

1

出典:CAPA 世界LCC10010月第3週供給席数ランキング

*JetBlue A320x162+E190x602機種編成

注)Norwegian Air International は、Norwegian Groupがアイルランドで設立した航空会社でNorwegian Air Shuttleの姉妹会社である。Norwegian Groupは、このほかにもEU域内に複数の外国籍の航空会社を保有している。

 

 以上述べてきた通り、ビジネス旅客市場に参入しているLCCや、長距離路線を開設しているLCCや、あるいは両方同時に実行しているLCCが出現し始めている。それらのLCCは、“LCC10ケ条などかなぐり捨ててしまって、まるでFSCのビジネスモデルを真似ているようだ。だからと言ってLCCが完全にFSCになってしまった訳ではない。先に例示した通り、大西洋線の最低運賃を片道1万円で販売するレッキとしたLCCである。

 

 ではなぜ、コストがかかる長距離路線では成功しないと言われてきたLCCが次々と誕生してちゃんと運航できているのだろうか?確かに長距離路線では、使用する中型機の運航コストは、機体重量も重くなり長距離を飛ぶだけ燃料コストも高くなる。長距離となれば、ある程度の客室快適性が求められる。機内食などの機内サービスも必要だ。それにパイロットや客室乗務員の必要数は、短距離狭胴機運航の場合に比べて倍以上も必要になる。とにかく長距離路線はコストがかかるのだ。長距離便ではLCCは成功しないと言われてきた所以がここにある。上位クラスに高い運賃を設定すれば良いのだが、それでは低運賃のLCCのレゾンデートルすら失われてしまう。

 

 詳細な分析をしたわけではないが、最近の燃油費の低下、燃費性能の良い航空機の出現、短距離で培ったローコスト運営ノウハウなどが長距離LCCを成功に導いている理由に挙げられよう。実は長距離LCCは、短距離用のLCC10ケ条を長距離路線にも適用できるように巧みに調整をしている。例えば座席配置についても、2クラス制を導入したけれども、個々の座席スペースはそれほど拡大せずにより多くの席数を確保している。また機内サービスについても勿論有料であるけれども、チョイスを制限するなどのコストセーブを行なっている。

 

 これらの理由うちで最大の理由は、航空機の性能向上にありそうだ。B787型機などの最新鋭機は、燃費コストがそれまでの在来型に比べて20%近くも削減できると言われている。ノールエージャンのCEO Bjørn Kjosは「B787型機が存在しなければ長距離LCCは成功しなかったかもしれない」と語っている。そして長距離LCCは、この高性能機を誰よりも長時間稼働させている。Kjosは「長距離線に使用するB787型機は、1日あたり18時間稼働させる」と豪語している。業界では、日間稼働時間は精々12時間とされているので、18時間となれば1.5倍の超高稼働となる。稼働を1.5倍にすれば、単位あたりの運航変動費は1÷1.5=0.6733%低下することになり、理論的にはそれだけ運賃を引き下げることが可能になるのだ。

 

 さて、日本発着の長距離LCCはどのくらい存在しているのだろうか?エアアジアXA330型機(プレエコ35+Y340=合計375席)による札幌=クアラルンプール(飛行時間7時間35分)が最長路線である。スクートのB787型機(C12+Y365=375席)成田=バンコック(5時間50分)が次に来る。日本では国際線LCC供給シェアが20%になりつつあるが、未だ本格的な長距離路線は始まっていない。航空機の性能がさらに良くなり、A320neoB737MAXが導入されつつあるので、狭胴機によるより長い路線の運航も早晩可能になっていく。2019年には4,000海里(約7,400キロ)をノンストップで飛行できるA320LR型機が登場する。そうなれば、何も中型機に依存せずとも日本からホノルルや東南アジアや豪州までの直航が可能になる。200席程度の狭胴機なので需要の多くない地方発国際線の拡大にも貢献すること必定だ。そして日本発着国際線でもLCCFSCの全方位の競争がさらに激化するだろう。

 

 言い忘れたが、北大西洋路線では、ノールエージャンの供給拡大を恐れた米国の航空会社やパイロット組合などが、同航空会社の新規米国路線の開設に反対している。米運輸省は、ノールエージャンのEU域内に設置した子会社は海運に置ける便宜置籍船会社に相当する疑義があるとして、その米国新路線申請の承認を2年以上も遅らせている。(注:ノールエーはEU非加盟国である。)

 

自国の航空会社の供給拡大をする時は相手にオープンスカイ協定を押し付けて、相手の航空会社の供給拡大の時には難癖つけてオープンスカイを渋る、なんだか米国の御都合主義のようにも感じなくはない。この話の詳細は、紙幅の関係で次回のレポートに回そう。

 

以上

 

 

 

海外事情

 

6 10 日から 21 日までの 2 週間のオンライン旅行流通に関係する海外主要記 事です。
この号では、「3. OTA エアビーとレートパリティー」に注目したいと思います。 Airbnb がホームシェアに加えてホテルまで販売するとなると、
泊とホテルが 一つのプラットフォーム上で横並びにリストされることになり、タイプの異な る施設同士の価格比較が難しくなって、レートパリティーの維持が困難になる と言っている・・・と理解しました。しかし「(Airbnb では)、ゲストが施設の 真のコストを判断できない不明瞭なプライシングの環境が存在する」とはイマ イチ良く理解できませんでした。Airbnb が最近導入したホストオンリーのコミ ッションモデルであれば、OTA のモデルと近似するのですから、そんなことに はならない、のではないでしょうか?
 

 

Airbnb が上場して・・・顧客獲得コストが上昇・・・ホテルの直販志向を強 くさせることになるが・・・一方でパリティー破りの悪役である格安販売のホテ ルオンリーの業者が増加するデメリットも存在する」とも言っています。しか し、ホテルにとっては、Airbnb のホテル販売開始によってチャネルがそれだけ 増えるので(OTA の中抜きのチャンスが生じるので)良いことである、と考え るのは間違っているのでしょうか?ホテルオンリーのパリティー破りは、 Airbnb とは関係のない別の次元の話では。「Airbnb のコミッションが、将来値 上げされる可能性もある」と言っていますが、EXPEBKNG との対抗上、こ の大手 OTA2社を上回ることにはならないのではないでしょうか。Airbnb の 多角化戦略は、「焦点が合っておらず・・・会社(Airbnb)は衰退する可能性が ある」とも言っていますが、ホームシェアからホテル販売を開始して、OTAHotelTonight を買収し、OYO に投資し、そしてタビナカの Experiences プロダ クトを開発して EXPEBKNG に競争を挑むのは、まさに Airbnb総合旅行 会社になるという大いなる経営ビジョンであると考えるべきだと思います。 この記事の著者(OTA Insight, Chief Commercial Officer)は、Airbnb に対して かなり否定的であるようです。中小の独立ホテルにとっては、そもそもパリティ ーに縛られたくない筈ですから、Airbnb がパリティー維持を困難にしてくれる というのであれば、これは歓迎すべきことではないのでしょうか。最後に「ホテ ルは、ますます複雑化する流通を制御することができない。ゲストが他では取得 できない並外れたエクスペリエンスを提供することに最善を尽くし続ける必要 がある」については全く同感です。 

 

恒例のメアリー・ミーカーの「インターネット・トレンド 2019」が発表されま した。「12. メアリー・ミーカー、インターネット・トレンド発表」
この 333 枚のスライドでは、日本の企業は Sumitomo MitsuiLINEMIXI の たったの3社が言及されているに過ぎません。中国は独立した章(11China) で 30 ページ以上が割かれています。日本のインターネットテクノロジーの弱さ が見て取れて、とっても悲しいことです。(編集人)