737MAX事故と航空機開発

(コラム) 

                                     2019422 

 

737MAX事故と航空機開発 

 

                               航空経営研究所 主席研究員

                                       稲垣 秀夫 

 

2018年秋から翌年の春にかけてボーイング社製造の737-8(通称737MAX8)が2度の連続墜落事故を起こしました。まずは遭難された346人の乗客、乗員の皆さんのご冥福をお祈りします。4月現在、737MAXは運航停止状態にあり、ボーイング社も長引く出荷停止から生産機数を調整しています。報道もそろそろ一段落し、事態は収束に向かっているようです。この記事ではこれまでの情報をもとに、事故の経過を振り返り、この事故とは何だったのか、その問題の本質と背景、日本のメーカーに与える影響などを考えてみたいと思います。 

 

 

(事故の経過)

 

今回の737MAXの一連の事故についてはいずれもまだ最終報告は出ていませんが、ボーイング社のトップはすでに設計上の瑕疵があったことを認めています。事故調査の中間報告によれば、2件の事故のどちらのケースも直接的な墜落原因は機体が巡航高度を目指して上昇飛行中に機首下げの姿勢となり、その姿勢を修正できないまま地上に突っ込んだという単純なものだったようです。一般に地上への墜落事故は推力不足で低速飛行中に、十分な揚力を得ようと迎え角を大きくとりすぎ、機首上げ姿勢で失速し墜落するというのがよくあるケースですが、今回はこれとは正反対のことが起こったようです。

 

機首下げ姿勢のまま墜落した理由は、自動操縦により水平尾翼が作動し、それがピッチモーメント(飛行機が縦に首を振る回転力)を生んだが、パイロットの操縦がそれを阻止できなかったということのようです。この自動操縦は737MAXで新たに装備されたMCASManeuvering Characteristics Augmentation System: 操縦特性補正システム)により作動しました。このシステムを構成する失速警報装置のセンサー(AOA : Angle of Attack Sensor:迎え角センサー)1個が故障したというのがおおもとの原因だったようです。インドネシアケースでは故障は以前のフライトで起こったようですが新たに取り付けた部品が正しく機能せず、また、エチオピアのケースでは事故が起こった飛行において鳥が機体に衝突し、センサーが取れてしまったそうで、それぞれの故障した原因は異なるようです。 

 

 

(外部には理解不能なMCAS

 

これまで世界中の多くの技術者がボーイングのデザインした飛行機から技術を学んできました。筆者も多くを学びましたが、そのボーイングがこのMCASシステムをデザインしたと考えると、僭越ながら、どうも「弘法も筆の誤り」だったのではないかと考えています。

 

筆者が抱く「疑問」はまず第一に水平尾翼を使ってピッチコントロールをしていることです。設計者はMCASの作動機構として、なぜ、通常機首上げ下げのコントロールに使われる昇降舵ではなく、水平尾翼を使うことにしたのでしょうか。「飛行機のピッチ(上下の首振り)制御は重要で、間違えると墜落に直結する」というのは航空工学の初歩的な知識です。通常、飛行中の機首の上げ下げ(ピッチコントロール)には、手動操縦でも自動操縦でもエレベーター(昇降舵)を使います。失速危険時の緊急回避的な自動操縦機能とはいえ、ピッチモーメントを変化させる機能ですので、昇降舵を使う方が自然だと思えるのですがどうなのでしょう。水平尾翼の役割は、本来、機体の重心移動に伴うピッチコントロールの中心位置のずれの補正に用いられています。昇降舵の駆動には繊細な動きが可能である油圧作動筒が使われていますが、大きな構造物である水平尾翼の作動には強い反力に耐えるジャッキスクリューとよばれる機械装置が使われており、動くと、ゴツン、ゴツンと大きな翼をしっかり動かすことができます。

 

737MAXはエンジン径に制約があったために、エンジンを従来より前方に出して地上とのクリアランスを作り、同時にエンジンパワーも増したことから、機首上げのモーメントが増して特別な制御が必要になったなど、いくつかのMACS設置に関する理由が記事で紹介されていますが、これらはいずれも部分的な見方ではないかと思われます。なぜなら737MAXは軍用の戦闘機ではなく、民間の旅客機だからです。戦闘機ならば速度と運動性能の双方の性能で最高の水準を得るために機体の姿が生み出す安定性能を犠牲にして自動操縦でそれをカバーさせるという設計の考え方が成り立ちますが、民間機の場合には、まず、機体の姿が生み出す安定性能を確立したうえで諸機能を付加していく、といった設計思想で作られるものだと思います。

 

上述のような考察から、737MAX設計の背景にある問題点を2つ挙げるとすると、一つはパイロットの操縦免許の対象機種としての認定、いわゆる業界用語でいう操縦の機種レーティングを737として、半世紀以上変えずにやってきた点が挙げられるのではないかと思われます。航空会社としては737MAXについても、レーティングが変わっていなければ、現役の運航の担い手である737のパイロットを軽微な訓練で737MAXに乗務してもらうことができます。新型機への移行でなければ、機種間の移行訓練を軽減できますので、航空会社にとって新型機への切り替えをスムーズに進めることが可能になります。ボーイング社にとっての利点は、それにより販売を円滑に進めることができるわけです。双方にハッピーな結果をもたらすように見えますが、そのためにデザインを大きく変えられないという制約が生じ、新型機を作るにあたって大きな設計変更ができないわけです。7371968年に飛び始めて、すでに50年以上経過していますが、ずっと継ぎ足し、継ぎ足しで設計変更を繰り返してきました。強いて例えれば、老舗の旅館が増築を繰り返してきて、施設を複雑にしたようなイメージです。どこかであきらめて、新技術を駆使した機種として、全体がすっきりまとまった設計にしたほうがいいのでしょうが、なかなか踏ん切りがつかないのではないでしょうか。

 

二つ目がこのMCASという自動操縦システム自体のデザインの妥当性です。現在メーカーが準備を進めている再発防止策はこのシステムのプログラム修正です。事故の再発を防ぐための安全確保についてはこれで十分なのですが、ただ、それでも「故障確率から見たセンサー部品の品質はどうなのか?」は気になりますし、「たった一つのセンサーの故障とその取扱いの間違いだけで事故が起こったのであれば、MCASの全体設計は妥当だったのか?」、とりわけ1系統が故障した場合のバックアップ機能の多重性が十分だったのかは疑問が残ります。加えて、このシステムを生み出した設計評価のプロセスに問題はなかったのでしょうか?民間機の開発ではMSG3maintenance system group 3)というデザインプロセスに従って、飛行の安全に配慮した設計が進められます。機体構造や機体システムにはこのシステムが十分通用しているのですが、自動操縦系のシステムに対してこのMSG3が有効に機能したのか今回の事故は疑問を残しました。 

 

 

(新型機開発が促進される?)

 

ここ数年、797というネーミングで、757後継機の開発の話題が航空業界で盛り上がっています。ボーイング社は今春には開発について明確にすることとしていましたが、どうやら先送りされたようです。ボーイング社はここ数年、NASA(米航空宇宙局)と共同で地球温暖化を踏まえた環境対応型の次世代旅客機の研究を進めてきていますが、環境対応の主軸となる新エネルギー分野の研究を除いては、低燃費型の次世代旅客機の骨子について、一定の目途を得ている模様です。競争相手であるエアバス社やCOMACに対して革新的な技術で優位性を示せるのであれば、この成果を用いたシングルアイル(単通路機)の新型機の開発を始めるというのはありそうです。そうなると、今秋の事故も踏まえて長胴型の757の後継機だけではなく、737も新型機検討の範囲に入るのではないでしょうか。 

 

ボーイング社の民間機部門にとって、777X787は将にショーウィンドーを飾る商品ですが、経営の大黒柱はおそらく年間700機を超える機数を毎年デリバリーしている737でしょう。737MAXを更新する新型機の開発となると、ボーイング社の社運がかかることになり慎重にならざるを得ないでしょう。具体的には2年前に新規出荷始めたばかりで、737MAXを運航している航空会社の不興を買わないためには、新型機の開発の発表までに一定期間を開ける必要があります。また、737のデザインには古い技術が数多く使われていますので、新型機への移行となると多くの技術変更が起こります。したがって、現在生産しているサプライチェーンとは別の新しいサプライチェーンを準備する必要があります。巨大なビジネスにおいて生産事業者の変更が起こるわけです。ボーイング社としては、その双方と上手く付き合いながら新型機への移行を乗り切る必要があります。ボーイング社としてはおそらく退路を断たれた選択をするタイミングを迎えたのではないでしょうか。リージョナルジェットを製造する日本メーカーもボーイングの新技術が生む新たな民間旅客機マーケットの競争の変化からおそらく目が離せないでしょう。

 

 

(航空機メーカーが報道のターゲットに)

 

尚、今回の事故からは別の教訓も垣間見えてきます。今回、事故が起こった後、相当早い時期に、事故の当事者である航空会社をスルーして、メーカーであるボーイング社に報道の焦点が当てられました。結果的に事故原因が航空機メーカーの設計にあったことから、結果オーライだったのですが、事故原因がメーカーにあることが本当に早期にわかっていたのでしょうか。航空法上、国際的にも運航の安全管理の一義的な責任は航空会社にあります。これまでであれば、航空会社が世間の矢面に立ってきたわけです。ところが、LCCを中心とする新興の航空会社の比重が徐々に高まる中、世間やマスコミは、新興の航空会社は技術基盤が薄く、集中砲火に耐えきれないという暗黙の認識が生まれているのかもしれません。実際、1件目の事故の当事者であるインドネシアのライオンエアがターゲットとなった記事はほとんどありませんでした。安全に関する報道のターゲットが航空会社からメーカーに移ったということではないでしょうが、法律上の責任は別にしても、世間の目が航空機メーカーに向く傾向が今後も続くのかもしれません。

 

 

以上 

 

海外事情

 

84~16日の主要ニュース19本のうち、いつもはPhocusWire Dailyにはほとんど表れない法人旅行に関する記事が7本(目次の下線箇所)もあった。取扱高ベースで米国市場のおよそ3割が法人旅行市場にあたり、そしてそれに加えておよそ2割程度のunmanaged business 旅行市場が存在すると言われている。つまり米旅行市場のほぼ半分あるいはそれ以上が、法人旅行で構成されていることになる。それだけ大きな市場にもかかわらず、業界ニュースが少ないのに驚かされる。(尤もこれにはPhocuswrightの親会社であるNorthstar Travel Mediaが、法人旅行市場専門誌であるBTN=Business Travel Newsを編集していることも影響している。)

 

7本の記事を読むと、この市場のセルフ予約ツールの使い勝手が極めて劣悪で、法人旅行管理会社(TMC)のサービスに対しても出張者の不満が多く、その上企業の出張規定のかなり厳しい遵守の要求のために、出張者のモラルと生産性の低下が発生している可能性がある、という何やら暗い話が連続する。要するに観光旅行市場の方が法人旅行市場よりも、旅行の計画や手配のプロセスで、テックを含めてずーっと先進洗練先行しているというのだ。

 

しかし、最近になって、この遅れた法人旅行市場に目をつけた新規参入者たちが参入しつつある。そして彼らは、企業のコスト削減最優先に変えて出張者ファースト、出張者セントリックの戦略を敷いている・・・というようなことが、これらの記事に書かれている。観光旅行のベストプラクティスを法人旅行が真似ようとしている。これはFSCLCCを真似て、FSCLCCの境界線がぼやけ始めている話と似ている。出張先で仕事の前後に休暇旅行までしてしまうブレイジャーの拡大も、法人旅行のセルフインベンションの一つのきっかけとなっているのだろうか。

 

11. OTA4つの神話」は、“高い手数料をふんだくっている悪者OTA”の評判(風評?)に対するOTA の恨み節が書いてあって面白い。(編集人)

 

 

海外事情 916日号B 

 

81923日のニュースに加え、法人旅行に関する特集シリーズ3部作の第1部を掲載する。(お盆休みのために、1週間のニュース配信となります。)

 

前々号の楽天キャピタルの都市エクスペリエンスプラットフォームFever(ロンドンとマドリッドベース)出資に引き続き、「3. 楽天、東南アジアのバジェットホテルに投資」した。

 

2. 電子IDと旅行」は、プライバシーの問題について何も触れていない。生体情報は、整形手術をしない限り究極的個人情報なのでプライバシー保護には細心の、最善の、最大限の注意が必要だ。

 

6. 米司法省、セーバーのフェアロジックス買収を否認」は、この買収が実現しない場合は、SabreNDC開発に遅れが生じる可能性がある。これは、FarelogixGDS代替システムの能力に、DOJが“お墨付き”を与えたということか。(編集人)