航空会社のオーバーブッキング

この原稿は、ビジネスジャーナル(7.2 http://biz-journal.jp/2017/07/post_19643_3.html 

7.3 http://biz-journal.jp/2017/07/post_19647_3.html  )の下原稿となったものです。

 

服装やベビーカーまで理由航空機の搭乗拒否が多発!なぜオーバーブッキングは起こる?【前編】

最大で補償金100万以上?多発する航空機のオーバーブッキング、知られざる対応【後編】

として掲載されています。

 

 

航空会社のオーバーブッキング

  2017621

航空経営研究所 副所長 牛場 春夫

 

 

【ユナイテッド航空の搭乗拒否事件】

 4月9日、オーバーフッキングが発生したシカゴ発ルイビル行きのユナイテッド航空国内線で、搭乗済旅客を機内から力づくで引きずり降ろす喫驚仰天の事件が発生した。同乗していた旅客の、この顛末の一部始終を撮影したビデオがソーシャルネットワークで炎上、ユナイテッドのCEOが自ら陳謝せざるを得ない羽目に陥った。

 

 

 暴力してまで旅客を引きずり降ろすのは論外であるが、米国では航空会社が予約済旅客を搭乗拒否するケースは少なくない。米運輸省の統計では、2016年の1年間に47万人がバンプオフされている。これは、全搭乗旅客1万人あたり7.1人に相当する。日本の国内線の場合は、同期間に約9千人、1万人あたりにすると1.1人と極めて少ない。両者の違いは、日本の場合は航空会社の緻密な予約管理と低い座席搭乗率にあると言えるだろう。米国の航空会社の平均搭乗率は85%と極めて高く日本の70%どころではない。当然のことながらオーバーブッキングは満席便だけにしか発生しないのだから、平均搭乗率が高くなればなるほどオーバーブッキングによる搭乗拒否の確率は高くなる。

 

だが、航空会社が予約済みの旅客を搭乗拒否するのは、何もオーバーブッキングの場合だけではない。

 

·             シカゴの事件の直前326日には、同じくユナイテッド航空のデンバー発ミネアポリス行きで、レギンズをはいた少女2人が搭乗拒否されている。“特典航空券利用者のためのドレスコードにそぐわない”というのがその理由であるが、ソーシャルネットワーク上で、ユナイテッドに対する了見の狭い、若者の自由な装いの気風を理解しない対応に大きな批判が湧き上がった。

·             422日には、サンフランシスコ発ダラス行きのアメリカン航空の機内で、ベビーカーを持ち込んだ双子の子供の母親と乗務員との間でトラブルが発生、この母親を擁護する乗客と乗務員の間で殴り合いの喧嘩寸前までとなる騒動となった。結局この母親はこの便から降りて他の便に乗り換えざるを得なくなった。

·             つい最近613日には、世界最大のLCCであるライアン航空(アイルランド)のブリュッセル空港チェックインカウンターで、搭乗券発行手数料 €50を請求された米国人旅客が激怒して大声でわめき散らして騒いだため、搭乗を拒否された。

·          また。話は少々古くて恐縮であるが、201410月、クウェート航空のニューヨーク発ロンドン経由クウェート行きのニューヨーク=ロンドン間を予約したユダヤ人旅客の搭乗拒否が発生した。クウェート航空は、クウェートとイスラエル間は国交関係が存在せず、政府からイスラエルとのいかなる商取引も認められていないため、ユダヤ人を搭乗させる訳にはいかなかったと主張した。しかし米運輸省はこれを一切認めず、差別的対応の搭乗拒否を続けるならば米国乗入れの事業免許を剥奪すると警告した。板挟みとなったクウェート航空は、最終的に35年間も運航してきたこの路線を、20161月をもって運休してしまった。

 

【何故オーバーブッキングが発生するのか】

 なぜ、オーバーブッキングはこんなに多いのだろうか?航空会社が、ノーショーによる機会損失(儲けそこない)をオーバーブッキングでヘッジしているからだ。予約には、航空会社などのサービス事業者泣かせの「ノーショー(No-Show)」がつきものである。ノーショーとは、予約したにもかかわらず、現れない顧客のことをいう。つまり無断で予約を取り消す顧客である。予約とは将来のことを前もって約束することであるから、ノーショーの顧客は約束を守ってくれない人たちだ。ノーショーは、来ると思って用意していた商品が無駄になってしまうのだから、特に航空券などの在庫が効かない無形商品では、収入の機会損失(儲けそこない)が発生してしまうことなる。レストランや旅館が、予約した顧客のために用意した食材のほとんどを無駄にさせられてしまうのと全く同じ話だ。

 

 航空会社は、イールド・マネジメント・システム(YMS)によって、航空便一便一便毎の過去数年間の予約履歴を分析している。WX日(Y曜日)のZZZ便の出発前数ヶ月から出発までの全クラスの予約の出入り(下図 予約曲線)の予約軌跡、ノーショー、搭乗実績を詳しく分析し、将来の同月同日(の最も近い同曜日)の同一便の予約の発生を統計科学的に予測している。航空会社は、YMSを使ってノーショー率を予測、その予測に従ってオーバーブッキング数を決めているのだ。全日空の国内線の1日あたりの平均出発便数は832便(2016年)、一便平均席数240席とすれば1日あたりの総席数はおよそ20万席の膨大な規模となるので、YMSはビッグデータの解析システムであるとも言える。しかし、いかに優れたシステムといえども全て正確に予測することはできないので、どうしてもある程度は予測が外れて予測したノーショー旅客数の過不足が発生する。予測数より実際のノーショーが多い場合は、それだけ機会損失が発生し、その反対に少ない場合はオーバーブッキングが発生してしまうことになる。

 

 100席の航空便の場合を想定してみよう。YMSによりノーショー率を5%と予測し、5人のオーバーブックングを行って、予想通り5人がノーショーすれば搭乗率は100%となる。オーバーブッキングは発生しない。しかしノーショーが4人以下0人となる場合は、1~5人のオーバーブッキングが発生してしまうことなる。下図「オーバーブッキング概論」で図示した通りである。

 

 

【オーバーブッキング以外の対策】

 航空会社は、オーバーブッキングの他にもノーショーの対策を練っている。予約前払金(デポジット)をはじめ、予約変更や取消の場合の手数料を徴収して、機会損失を最小限にすることを試みている。ノーショーを、し辛くしてしまうという考えだ。予約変更の頻度が比較的多いファーストクラスやビジネス旅客運賃では、前払い金も取消手数料も一切かからず至って使い勝手の自由な運賃だ。しかし、厳しい運賃規則を導入しない代わりに、運賃を高額にしてノーショーのリスクをヘッジしている。また一部の航空会社は、取消や予約変更手数料とは別に、ノーショー・ペナルティー料金なるものまで徴収している。

 

 一方これとは別に、格安運賃のLCCでは、予約と同時に運賃決済が必要になる制度を導入し、しかもその運賃を払戻不可としてノーショーによる機会損失を完全に無くすことに成功している。ノーショーすれば、購入した航空券はただの紙切れ同然になってしまう。つまり、ここでは全ての座席を“売り切る”販売手法が取られている。LCCは、顧客に予約変更の権利を放棄させる代わりに格安運賃を提供していることになる。最近では、フルサービスの航空会社も、このようなLCC運賃モデルをエコノミークラスのベーシックフェアー(格安運賃)に導入し始めている。

 

【顧客の権利はどうなっている】

 旅客と航空会社の関係は、運送約款に定められている。この約款により、航空会社は顧客と交わした運送契約を履行することになる。また、これとは別に、国や地域によっては、旅客の権利を保護する法令が存在する場合がある。当然のことながら、その場合は法令が約款に優先する。しかし約款や旅客権利の話に入る前に、最も基本的かつ重要な両者の関係を理解しておく必要がありそうだ。それは、搭乗旅客は、乗務員の指示に従うことが義務付けられているということだ。機長(キャプテン)は、“Pilot In Command”と言われている通り、航空機の運航とその安全に関する全てを統括する文字通りの最高責任者である。したがって機長は、運航の安全に影響を及ぼす可能性がある旅客や、航空会社の言うことを聞かない旅客を搭乗拒否する絶対的な権利を有しているのだ。とにもかくにも、予約済みであっても、最終的な旅客の搭乗可否の決定権は全て航空会社が握っていることになる。

 

 約款の話に入ろう。国際航空運送協会(IATA)の国際運送約款は、オーバーブッキングにより搭乗を拒否された場合、旅客は補償を受けることができると謳っている。そして運送人(航空会社)は、法令に定めがある場合は、自主的に搭乗を辞退してくれる旅客を募らなければならず、その補償については運送人の規定によるとしている。募集しても応募する旅客がいない場合や、目標の旅客数に達しない場合は、航空会社の社内規定に従って選別した顧客と直接交渉して降機してもらうことになる。選別基準は、航空会社によってまちまちであるが大抵の場合、航空運賃の多寡、チェックインの順番、マイレッジ会員か否かなどの基準によって判断されているようだ。多くの航空会社は、IATAのこの約款に準拠している。

 

 欧州では、EU域内共通規則261「航空便補償規定」が存在する。航空会社は、搭乗拒否した旅客に対して、航空便の路線距離や代替便による目的地到着までの遅延時間(予約した便と代替便の最終目的地の到着時間の差)の大小により、€125€600の補償金(Cash Compensation)を支払わなければならない。米国でもEUの場合と同様に、搭乗拒否された旅客は、連邦行政規則集14 CFR 250.5「連邦航空規定」により支払った航空運賃の2倍(最大 $650)までの補償金を受ける権利を有している。代替便の最終目的地到着時間が大幅に遅れるようなことになれば、補償額は4倍(最大 $1,300)となる。補償金は、その金額と同等かそれ以上の相当額の航空券(トラベル・バウチャー)により代替できる。そしてどちらのケースでも、航空会社はホテルや飲食などの付随サービスを必要に応じて提供しなければならない。

 

 日本では、国内線の場合は2001年に作られた「フレックストラベル」と呼ばれる制度がある。この制度により搭乗拒否に応じた旅客に対して“協力金”として1万円もしくはマイレッジポイント7,500ポイントを提供する。代替便が翌日となる場合、協力金ないしマイレッジは倍増する。国際線の場合は、前述のIATA国際運送約款に従っている。補償については各航空会社によって異なる対応が取られている。日本では、国内線と国際線のどちらの場合も、EUや米国の如くの法令は存在しない。

 

【各国でオーバーブッキングの規制強化が始まりだしている】

 米下院の運輸委員会は、ユナイテッドの事件の直後、米航空会社のCEOなど上級幹部を議会に招聘、彼らに対して顧客サービスの抜本的改善を命じた。メジャーは、(1)オーバーブッキング補償上限の $10,000引き上げ(注1)、(2)予約(YMS)システム改善によるオーバーブッキング大幅削減(注2)、(3)搭乗後旅客の降機禁止(注3)、(4)社員サービス再教育、(5)簡略化を含む約款の見直しなどの検討を約束させられた。またその一方で、旅客権利保護のための新たな規定の必要可否を会計検査院に検討させている。

(注1)デルタ航空は、今までの2倍以上となる2万ドル相当のトラベルバウチャーを提供する権限を空港責任者に付与した。

(注2)サウスウエスト航空はオーバーブッキングそのものを中止した。

(注3)ユナイテッドは、搭乗済み旅客を降機させるのを禁止した。

 

 カナダ政府においては、オーバーブッキングによる搭乗拒否禁止を含む旅客権利保護法を制定することとし、2018年の立法化を試みることとなった。

 

 

【今後はどうなるのだろうか?】

 航空会社は、売り切りモデルのLCCを除いて、収入の機会損失を最小限にするためにオーバーブッキングを今後も継続するだろう。航空会社は何時も「オーバーブッキングは公衆の利便向上に必要である」と言っている。つまり、ノーショーによって空席が発生すれば、その便に乗りたがっていた他の旅客の搭乗機会を喪失してしまうことになり、ひいては公衆利便を阻害するというのだ。適正なオーバーブッキングを実施することにより、より多くの搭乗希望旅客に座席を提供することができるので、すなわち公衆利便が向上するという理屈だ。

 

 それはさておき、今後はどうなるのだろうか?それこそビッグデータ解析のテクノロジーの進化により、航空会社はノーショーを頻繁に行う(約束を守らない)顧客を割り出すことに成功するかもしれない。また同一路線を運航する複数の航空会社間の予約データのクロスチェックを可能にして、ダブルブッキング(二重予約)を突き止めるシステムも開発されるかもしれない。そしてAI(人工頭脳)を駆使したYMSの予測能力も向上するだろう。そうなれば、オーバーブッキング発生の確率は大幅に低下、否、究極的には無くなってしまうかもしれない。それに、ノーショーや二重予約をしばしば実施する顧客に対して、航空会社は混雑便の予約優先順位を低下させるなどの対策を取るようになるかもしれない。共有経済の申し子であるエアビーやウーバーがしているように、航空会社も顧客の評価をするようになる。

 

 テクノロジーといえば、航空管制システムや航空機のテクノロジーについても今後さらに進化すること間違いない。航空機の信頼性もますます向上、天候や天変地異の自然現象による場合を除いて、航空便の遅延や欠航も無くなって行くのではないだろうか。また空港におけるセキュリティーチェックの方式も、バイオメトリックス認証技術を使ったNo Fly List(注4)の危険人物の割り出しや、先進手荷物スキャナーによる危険物探知が、瞬時に実施されるようになるだろう。

(注4No Fly List = テロリストやハイジャッカーなどを搭乗阻止するための米政府の搭乗拒否リスト

 

 そうなれば定時性が改善し、空港の安全検査のハッスルも軽減され、航空旅行の快適性が飛躍的に改善するだろう。20年後の世界では、現在の倍のおよそ35億人(注5)が航空旅行を楽しむことになるというのだから、そうせざるを得なくなるはずだ。

 

(注5)IATA予測、航空便セグメント数では、1旅客が2区間(往復)利用するとすれば延70億人以上となる。

 

                                     以上 

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