悩める巨人ボーイング ~新型旅客機B797を開発すべきか断念すべきか?~

 

(コラム)

 

悩める巨人ボーイング ~新型旅客機B797を開発すべきか断念すべきか?~

 

2018年8月10

                                   主席研究員  橋本安男 

   

 2大航空機メーカーとして激しくしのぎを削るボーイングとエアバスの新規の航空機の開発は、新型エンジン換装などの派生改良型を除くと、それぞれB787(2011)A350(2015)が最後となっている。航空機開発には、数兆円規模の開発コストを要するため、いきおいその決断には慎重にならざるを得ない。ボーイングは、比較的小型のワイドボディ機(広胴機)を開発する構想を数年前から打出しており、2025年の完成を目標に、すでにエアラインとの協議も行い、慎重にマーケット・サーベイと技術検討を行っている。この新型機が実現すれば、「ボーイング797」と名付けられることになるのだが、さまざまな技術検討が必要なことと、大きなリスクがあることから、ボーイングも、なかなか決定に踏み切れないでいる。7月のファンボロー航空ショーで発表されるとも噂されたが、結局それもなかった。新型機の開発には約6年が必要なため、ボーイングの決断に残された時間は少ない。

  

●200席クラスでほぼ一人勝ちのエアバスA321neo

 

 ボーイングとエアバスは、旅客機製造でほぼ市場を2分し生産機数で拮抗しているが、一般論では、ボーイングは、ワイドボディ機(広胴機・2通路機)に強く、逆にエアバスは、ナローボディ機(狭胴機・単通路機)に強い。エアバスのナローボディ機A320シリーズは、LCC拡大の波にも乗って驚異的なスピードで売り上げを伸ばし、今年6月時点での総発注機数は、14276機とライバルであるB73711,650機を凌駕している。

 

 とりわけ、A320シリーズで、胴体を延長した200席クラスで新型エンジン装備のA321neo(ネオ)の売り上げは非常に好調で200席クラス市場の多くを取り込んでいる。A321neoは、最大240席までカバーする他、胴体に燃料タンクを増設し航続距離をナローボディ機最長の4,000海里(7,400km)以上に伸ばしたA321LR(ロング・レンジ)も開発中で年内に就航の予定だ。このA321LRは、特にLCCによる大西洋路線など中長距離国際線に適していて、我が国のピーチアビエーションも、7月に2機発注し、2020年から東南アジアの7時間程度の中距離路線に投入する計画だ。

 

航続距離の長いA321LR(ロング・レンジ)の初フライト(Ⓒ エアバス社)

  

 A321neo/A321LRの躍進ぶりに対し、ボーイングも決して手をこまねいて来た訳ではない。当初は、ベストセラー機 B737の新型エンジン装備機であるB737MAXの胴体を延長して対抗しようとした。A321neoと同じ240席クラス、また燃料タンクを増設してA321LRを超える4,500海里(8,330km)の航続距離を目指すとの観測もあった。しかしながら、ふたを開けてみると、昨年6月「パリ航空ショー2017」で発表された「B737MAX 10」は、席数は230席、航続距離は3,215nm5,960km)止まりだった。元々、B737は、設計が古く、胴体延長にも限界があり、これ以上の大型化は、同時並行で検討中の新型ワイドボディ機で実現する方向に戦略転換したのだった。 

 

ワイドボディの快適性とナローボディの経済性の良いとこ取りの「B797」デザイン

 

 ボーイングは、公式的には、この新型旅客機のことを未だ「B797」とは呼んでおらず、もっぱらNMA(ニュー・ミッドサイズ・エアプレーンあるいはニュー・ミッドマーケット・エアプレーン)と呼んでいる。要するに、中間的な市場をターゲットにし、小型旅客機B737と中型旅客機B787の中間に位置し、そのギャップを埋める、席数で約220席から270席の比較的小型のワイドボディ機の構想である。ボーイングは、このような中間市場の航空機需要が、今後20年で4,000機から5,000機あると見込んでいる。

 

B737B787のギャップを埋める新型旅客機B797(Ⓒ ボーイング社)

  

機材コンセプトの基本は、「ワイドボディの快適性とナローボディの経済性の融合」である。つまり、旅客には快適なワイドボディ機の2通路の客室を提供し、エアラインとしてはナローボディ機並の低コストを享受するのである。このため、新たに採用されると言われている特徴が、初の「胴体のハイブリッド化」である。これまでの胴体の断面は、通常ほぼ真円に近いが、この機体では、卵型、上下に押しつぶした楕円形となる。この結果、機体の抵抗は減少し、機体の全備重量も減少するので、燃費は通常のワイドボディ機よりずっと良くなる。ただし、旅客輸送ではワイドボディ機並だが、貨物は、ナローボディ機並みの低容量となってしまう点は、評価が分かれる。

 

NMA/B797」のハイブリッド胴体のイメージ(Ⓒ 筆者)

  

さらに、新型のエンジン装備により、更なる低燃費と時代の要請である静粛性を含む高い環境適合性が実現される。また、胴体や翼は、B787と同様、金属から複合材となる。その一方で、経済性が重視されるため、機体価格もナローボディ機並みに抑えられる模様だ。最近、80%の資本を買収し支配下に置いたブラジルのエンブラエル社の安くて良質なエンジニアを人的リソースとして活用し開発費を抑えることになるだろう。

  

●エアバスによる強烈なカウンターと駆け引き-A321neo/A321LRの改造計画 

 

 一方のエアバスは当然のことながら、黙ってはいない。『ボーイングの抱く中間市場の存在は幻想だ。すでにA321neo/A321LRがあり、もしワイドボディが欲しければA330neo-800(300席クラス)があるので、この市場は充足されている』と、ボーイングの構想を一蹴する。さらに、エアバスは、A321LRを改良し航続距離を4500海里まで延長したXLR(エクストラ・ロング・レンジ)を2022年に市場に出すことを検討すると、6月に発表した。つまり、B797の3年前に、改良版を出して市場をさらに侵食し『B797が出てくる頃にはもう市場は残っていませんよ!』と、ボーイングを牽制、と言うより脅しをかけている。相手を下ろしにかかるポーカーゲームの駆け引きであり、チキンレースの様相だ。

 

航空業界では、エアバス以外にもボーイングに対して懐疑的な声も少なくない。「2025年の実現は無理。実現できても市場が残っていないだろう」「中途半端なワイドボディより、むしろまっさらな新型ナローボディを造って胴体を延長する方が合理的だ」「貨物が少ないのは、ワイドボディとして魅力半減」等々である。

 

 ボーイングとしては、このまま何もせず中間市場をエアバスが支配するのを看過する訳にもいかず、かといって新たなワイドボディを開発しても成功する保証はない。『悩める巨人、ボーイング』なのである。

 

 しかしながら、ボーイングとして、大きな拠り所は、旅客の快適性志向とワイドボディ機選好性である。旅客の強い支持が見込まれ、さらに、価格もリーズナブルで最新のテクノロジーで経済性も従来機より高ければ、たとえ2025年と登場は遅くとも、多くのエアラインが採用してくれるものと、ボーイングは踏んでいるのであろう。 

 

これまで、ボーイングは多くのワイドボディ機を開発し世に送りだして来た。B7471970年)、B7671982年)、7771995年)、7872011年)という新たなコンセプトで時代を画した旅客機は、何れも成功を収め、民間航空の発展に寄与してきた。その意味で、新たなコンセプトの新型ワイドボディ機B797の登場が期待される。遅くとも、来年には、ローンチ(あるいは断念)のニュースが聴ける筈である。

  

                                                    以上

 

海外事情

 

今週号では、「7. アゴダの多角化戦略」、「8. ブッキング、民泊の新戦略」、「13.ブッキング、法人旅行テックプロバイダー買収」、「15. ブッキング、配車アプリのグラブと提携促進」と、BKNGの関連ニュースが4つもあった。BKNGの「Connected Travel」戦略の遂行が進んでいる。BKNGの場合は、Internet of Things (IoT)が、Internet of Travel (IoT)と読み替えているように感じられる? 

 

それよりも、3つの記事が印象深い。「10. 本当のディスラプション」、「22. ソーシャルメディアと旅行」、「24. 東南アジア市場の2つの問題、OYOとインスタ」の3つだ。

 

10. 本当のディスラプション」では、ディスラプティブのプロダクトは、必ずしも既存企業よりも良いわけではなく、今まで既存企業が不経済なために手を出さなかったサービスのニーズに取り組んだか、以前は特定できなかったニーズのいずれかであると説いている。そして、ディスラプティブを起こしているのは、テクノロジーでなくて、創造性を発揮したクリエイティブなモデルであることを再確認させてくれた。

 

22. ソーシャルメディアと旅行」は、旅行とソーシャルメディアの相性が抜群に良く、旅行業界がソーシャルメディアを誰よりもうまく使っていると言っている。ソーシャルメディは、人と人の繋がりをインターネットで補完するコミュニーケーションサービスなのだから、顧客とのエンゲージメントに優れているのは当たり前だ。これを上手に使っていないとすれば問題だ。

24. 東南アジアの2つの問題、OYOとインスタ」は、この地区における観光公害の実態を報告している。オンライン旅行ガイドTravelfishStuart McDonaldが、過去15年間で悪化している観光公害の実態を、歯に衣着せずのタッチで断罪している。(編集人)

海外事情12月9日号 

 

2つのIATA NDC標準に関する記事「4. NDC進捗状況」、「16. 航空会社の3つのテクノロジートレンド」が有った。4.の記事は、NDCは安定的に進展しているものの、乗り越えなければならないハードルがまだまだ存在すると述べている。その反対に16.の記事は、開発進展状況は計画通り順調だと述べている。後者は、IATAが主催した航空会社リテーリングシンポジウムに関する記事のため、多分にIATA寄りになっていると思われる。4.がより正確に実態を表しているのだろう。「技術的な問題よりも“人と金と政治”(people, money, politics)の問題が進展を阻んでいる」と言っている。NDC APIで接続して流通経費をできるだけ削減したい航空会社と、反対していたNDC に今では積極的に対応して、新たに登場したアグレゲータとの競争に勝利するためと、航空会社に“中抜き”させないための両方で頑張っているGDSとの、これからのせめぎわいが激しくなるだろう。 

 

グロバールOTAの第3四半期決算で、EXPE22%大幅減益となった「9. エクスペディア 3Q 減益」。その反対にBKNG10%増益した「15. ブッキング3Q、増収増益達成」。どちらもnet incomeベースだ。EXPEの減益は、GoogleSEOに関するアルゴリズム変更が影響しているという。BKNGは、このチャネル規模がそんなに大きくなく影響が軽微であったという。TRIP3Qも減収減益となった「12. トリアド、トリップ・コムと中国合弁設立」。TripAdvisorブランドホテル収入が、Google自身のホテルプロダクト検索増加が原因で14%減少したのだ。Googleの旅行領域参入がますます本格化しているようだ。

 

117日、3社の株価は、EXPE27%BKNG8%TRIP22%、と値を下げた。市場は、オンライン旅行市場におけるOTAの今後の競争力維持を懸念しているのだろうか。OTAは、サプライヤー直販拡大はもとより、Airbnbなどの新たな販売モデルの台頭やGoogleなどのグローバルプラットフォーマーとの競争激化に直面している。(編集人)