パイロット不足は安全に影響を与えるか?

  

パイロット不足は安全に影響を与えるか?

  

2018年6月23日

 

航空経営研究所 主席研究員 風間秀樹

 

 

昨今は何かとパイロット不足が話題になっているが、この問題が数の不足をどのように補うかということに関心が向けられ、質の問題にはあまり触れられていないように思われる。 

国によってパイロットに免許を与える基準には違いがあり、また免許を持っているパイロットを採用するか否かの航空会社の基準にも違いがあるのは事実であるが、それぞれの基準が甘いか厳しいかについては運航の安全が担保されている限り、文句のつけようがない。従って、利用者としてはその航空会社の評判や運賃の違いを天秤にかけ、航空会社を選定することになるだけだ。 

しかし、これまでに大きな事故は起こしていないとはいえ、その航空会社のパイロットの技量レベルが基準ギリギリだということを知ってしまったらどうだろうか・・・。 

 

現在米国では深刻なパイロット不足の状況が続いている。その原因は二つ。一つはパイロットの賃金の低下による職業としての魅力の低下、 もうひとつは免許を取得しても更に自前で飛行経験を積まないとパイロットとして乗務できないという安全規制の強化にある。そのために掛かる費用が1000万円以上である。 

これでは有為な人材が航空業界に入ってきずらいのも無理はない。 

ではこのような状況の中で米国の航空界では一体どのようなことが起きているのか。 

市場原理から、パイロットの不足が賃金の上昇に結びつくことは事実である。しかしこの不足の状況が改善する見込みは殆どないとなれば賃金の上昇は青天井となり、航空会社の経営を圧迫することは目に見えている。航空会社の経営としてはそのコストを如何に削減するかを考えるのは当然である。

  

これまで、アメリカン、デルタ、ユナイテッドなどの米国のメジャー・エアラインは自社のパイロットの供給源を中小の数多あるリージョナル・エアラインに頼っていたが、現在ではそのパイプを限りなく細くしているのだ。何故そのようなことをするかと言えば、メジャーエアラインは定年退職して行くパイロットの不足を補うことはせず、本体をスリム化していこうとしていると考えられる。 

自社での高額のパイロットを出来るだけ減らし、自社便の運航を子会社や共同運航という形で、運航コストの安い関連会社に任せることによって利益を捻出しようとしているのだ。勿論、利用者はネームバリューのあるメジャーの高い運賃を支払わされるが、実際に空港へ行ってみると別会社の飛行機により運航されているという現実が今、米国の国内線の5割近くを占めているのである。  

 

それでも運航の安全が従前のように担保されていればさほど問題はないのだが・・・。 

先に述べたように米国のエアラインパイロットはリージョナルからスタートし、いずれはメジャーに移れるというインセンティブにより成り立っている。何故ならリージョナルの機長として一生勤めても年収は1000万円だがメジャーに行けばそれが3000万円から3500万円になるからだ。今、彼らにその道が断たれてしまったのだから、勢いリージョナルに入って来るはずの新人は二の足を踏んでしまう。 

かくして、パイロットの数を揃えなければメジャーからの要求に応えられないリージョナルの経営者は出来の悪い志願者も採用せざるを得ない状況に追い込まれているのである。 

アリゾナに拠点を置くMesa Airはこれまで新規募集の志願者の約20%を採用していたが、現在は約80%を採用。その結果自社での訓練でのフェイル率は5倍となり、仕方なく訓練量を3倍に増やすこととなった。訓練の現場では、以前には考えられなかった訓練生のレベルの低さに悲鳴をあげた教官やチェッカー達が、経営サイドの無理な要求に応え切れずその航空会社を去って行くケースも一社や二社ではなく起きている。彼らが、プロとしてのパイロットのプライドを守り切れなかったということだ。 

 

飛行機自体の安全性は飛躍的な技術の進歩の中で高まっているのは事実であるが、それを操作するのは生身の人間であることに変わりはない。これから益々AIが進化すると言ってもパイロットのいない旅客機に喜んで乗る人はそれほど多くはないだろう。最近は大きな航空機事故が起きていないということが、明日の安全を保障することにはならない。航空業界は益々のLCCの台頭などにより低価格志向にシフトしつつあるが、良いことばかりではない。米国の航空界で起きていることが日本では起きないと誰が言えるだろうか。

  

以上

 

海外事情

 

84~16日の主要ニュース19本のうち、いつもはPhocusWire Dailyにはほとんど表れない法人旅行に関する記事が7本(目次の下線箇所)もあった。取扱高ベースで米国市場のおよそ3割が法人旅行市場にあたり、そしてそれに加えておよそ2割程度のunmanaged business 旅行市場が存在すると言われている。つまり米旅行市場のほぼ半分あるいはそれ以上が、法人旅行で構成されていることになる。それだけ大きな市場にもかかわらず、業界ニュースが少ないのに驚かされる。(尤もこれにはPhocuswrightの親会社であるNorthstar Travel Mediaが、法人旅行市場専門誌であるBTN=Business Travel Newsを編集していることも影響している。)

 

7本の記事を読むと、この市場のセルフ予約ツールの使い勝手が極めて劣悪で、法人旅行管理会社(TMC)のサービスに対しても出張者の不満が多く、その上企業の出張規定のかなり厳しい遵守の要求のために、出張者のモラルと生産性の低下が発生している可能性がある、という何やら暗い話が連続する。要するに観光旅行市場の方が法人旅行市場よりも、旅行の計画や手配のプロセスで、テックを含めてずーっと先進洗練先行しているというのだ。

 

しかし、最近になって、この遅れた法人旅行市場に目をつけた新規参入者たちが参入しつつある。そして彼らは、企業のコスト削減最優先に変えて出張者ファースト、出張者セントリックの戦略を敷いている・・・というようなことが、これらの記事に書かれている。観光旅行のベストプラクティスを法人旅行が真似ようとしている。これはFSCLCCを真似て、FSCLCCの境界線がぼやけ始めている話と似ている。出張先で仕事の前後に休暇旅行までしてしまうブレイジャーの拡大も、法人旅行のセルフインベンションの一つのきっかけとなっているのだろうか。

 

11. OTA4つの神話」は、“高い手数料をふんだくっている悪者OTA”の評判(風評?)に対するOTA の恨み節が書いてあって面白い。(編集人)

 

 

海外事情 916日号B 

 

81923日のニュースに加え、法人旅行に関する特集シリーズ3部作の第1部を掲載する。(お盆休みのために、1週間のニュース配信となります。)

 

前々号の楽天キャピタルの都市エクスペリエンスプラットフォームFever(ロンドンとマドリッドベース)出資に引き続き、「3. 楽天、東南アジアのバジェットホテルに投資」した。

 

2. 電子IDと旅行」は、プライバシーの問題について何も触れていない。生体情報は、整形手術をしない限り究極的個人情報なのでプライバシー保護には細心の、最善の、最大限の注意が必要だ。

 

6. 米司法省、セーバーのフェアロジックス買収を否認」は、この買収が実現しない場合は、SabreNDC開発に遅れが生じる可能性がある。これは、FarelogixGDS代替システムの能力に、DOJが“お墨付き”を与えたということか。(編集人)