グローバル・アライアンス航空会社の“アライアンス破り”

この原稿は、ビジネスジャーナル6.2 (http://biz-journal.jp/2017/06/post_19308.html

 【激動する世界航空業界:最新動向研究と展望】巨大アライアンス支配崩壊で混沌化

として掲載されています。

 

グローバル・アライアンス航空会社の“アライアンス破り”

  2017516

航空経営研究所 副所長 牛場 春夫

 

 20161月に世界初のLCCアライアンス「U-Fly」が誕生した。U-Flyには中国コングロマリットHNAグループ(海南集団)のLCC4社と韓国の1社が参加している。そして同年5月には、アジア太平洋地域のLCC7社で構成するバリューアライアンスが設立された。このバリューアライアンスには日本のバニラエアが参加している。まるでLCCが、FSCFull Service Carrier)のグローバル・アライアンス(以下 Gアライアンス)を真似ているかのようだ。しかし最近では、LCCが急成長して世界の国際線航空旅客市場の10%以上の供給シェアを獲得してしまったのだから、FSCが慌ててLCCに対抗するためにLCCのベスト・プラクティスを真似はじめ、そしてその反対にLCCがさらにシェアを拡大するためにFSCのベストプラクティスを真似始めているというのはなんの不思議もない。LCCFSCのビジネスモデルの業態の境界線がぼやけて始めて、ハイブリッド型の航空会社が出現しつつある。

 こんなLCCのアライアンス結成のニュースに触発されて、本家のGアライアンスの現状を調べてみたのが以下のレポートである。

 

【グローバル・アライアンス】

 航空会社にとっては、ネットワークつまり路線網が極めて重要な意味を持つ。路線網の大小が、航空会社の集客力を左右することになるからだ。特にマイレッジポイント制度が導入されてからは、それを使える路線網のスケールの大小がこの制度の優劣のベースとなる。言い換えれば、マイレッジが顧客の航空会社選択の際の一つの重要なメルクマールとなっている。顧客にとっては、A地点からB地点に飛んでいる航空会社よりも、A地点からB/C/D/E・・・の出来るだけ多くの地点へ飛んでいる航空会社の方が便利で好まれると言う訳だ。航空会社では、とにかく「Big is beautiful」と言うことになる。そして、航空会社1社単独では年間6億人ほどの世界の国際線航空旅客に対応して世界の隅々まで飛んで行くことなど到底出来ないので、複数の航空会社が提携してネットワークを拡大していくと言うのがGアライアンスのそもそもの本来的な目論見となる。

 

 では、Gアライアンスの提携の内容とはどんなものなのだろうか? 大まかに言うと、顧客利便性の増進と加盟航空会社の収支改善の二つで構成される。顧客利便性の増進では、乗継サービス・コードシェア・マイレッジポイント相互利用などの提携がある。収支改善では、増収のための共同運賃設定や販売促進活動に加え、コスト削減のための空港施設共同利用や燃料などの共同調達が挙げられる。乱暴に言ってしまえば、ネットワークを皆で出来るだけ拡大して「競争を排除して談合しよう」という話だ。本来、競争法で禁止されているものがなぜ許されるのかと言えば、Gアライアンスによって顧客の利便性増進が約束されるからである。すなわち、少々の競争排除の弊害よりは、顧客利便性の増進の方が大きく勝ると言う“エクスキューズ”だ。

(注)なお、ここでは米国のビッグ3が、ハブ空港からの幹線に接続するフィーダー便(支線)をリジョナル航空会社により代替運航させている提携は対象としない。

 

 とはいうものの、共同運賃設定やそれに付随する収入折半などが提携に含まれる場合は、競争をトコトン排除した限りなく談合に近い性質を有していることになる。そこで、各国当局はこの種の提携の審査にあたっては、それが実施される路線の健全な競争環境が提携後にも必ず担保されることを認可の条件にしている。これは競争法適用免除協定(ATI)と呼ばれている。

 

 現在、世界には図表-1の通り、3つのGアライアンス(と冒頭述べた2つのLCCのアライアンス)が存在する。設立順にスターアライアンス(1997年)、ワンワールド(1999年)、スカイチーム(2000年)である。

 

 

〈図表-1 各アライアンスのプロフィール〉

 全日空は1999年にスターアライアンスに、日本航空は2007年にワンワールドにそれぞれ参加した。1987年に国際線に進出した全日空が、いち早くアライアンスに参加してグローバル戦略を追い求めたのに対して、かっては日本のナショナルフラッグとして君臨し、一時期(1983年)世界最大の国際線航空会社でもあった日本航空は、国際提携の重要性を軽視した訳でもあるまいが、全日空に遅れること8年後の2007年になってやっとワンワールドに参加した。

 

 現在のGアライアンスごとの国際線供給シェアは図表-2の通り、西ヨーロッパと東南アジアが約60%、北米と北東アジアが約80%になっている。

 

 

〈図表-2 Gアライアンスの地域別国際線シェア〉 

Gアライアンスの地域ごとのシェアの違いは、それぞれの地域のLCCの市場シェアの大小と関係する。LCCシェアが高いと、当然のことながらGアライアンスのシェアは低下し、その反対にLCCのシェアが低いとGアライアンスのシェアが上昇することになる。ライアン航空やイージージェットが運航する世界最大のLCC市場である西ヨーロッパと、エアアジアやライオンエアを抱える世界最大のLCCシェア(21%)の東南アジアでは、Gアライアンスのシェアは60%~58%と低くなる。逆にLCCシェアが12%~13%と低い北米や北東アジアでは、Gアライアンスのシェアが79%と高くなる。このことからLCCの拡大が、否応無く競争を激化させてGアライアンスのシェアに大きな影響を及ぼしていることが読み取れる。  

 

【アライアンス破り】

 最近、このGアライアンスに少し異変が起きている。加盟航空会社の“アライアンス破り”が増えているのだ。Gアライアンスよりも、二社間提携が優先されはじめている。その理由は、Gアライアンスの加盟航空会社数が多くなって来ると、どうしてもメンバー間の利害調整が難しくなり、自社の利益追求が希薄化するケースが増えてしまうからだ。またGアライアンス設立後の10年間に、大手航空会社間のM&Aが相次ぎ発生したことも影響していると言えるだろう。欧州では、エールフランス+KLM・英国航空+イベリア航空+エアリンガス・ルフトハンザ+スイス航空+ベルギー航空+オーストリー航空、米国では、デルタ(+ノースウエスト)・ユナイテッド(+コンチネンタル)・アメリカン(+エアウエスト)へと合併が進み、欧米両地区でそれぞれ“ビッグ3(注)が誕生した結果、Gアライアンス内の彼らの影響力が強くなり過ぎて、アライアンス全体の結束力を弱めてしまっている。(注)米国では、ビッグ3+1+1はサウスウエスト+エアトラン)とも言われている。

 要は、Gアライアンスのマルチ提携よりも、直接自社の利害を追求出来るバイラタラルの2社間提携の方が、今やメリットがずっとと大きくなってしまっていると言うのだ。その具体例を挙げれば、以下の如く枚挙にいとまがない。

 

Øワンワールド加盟のカンタス航空(QF)は20134月に、豪州欧州路線(カンガルー・ルート)のコードシェア提携で、長らく提携して来た同じくワンワールドの英国航空(BA)を袖にして、どこのアライアンスにも属していない中東のエミレーツ航空(EK)に乗り換えた。そして、この路線の経由地をシンガポールからドバイに変更した。

Ø中国国際航空(CA)は、ワンワールドのキャセー航空(CX)と株式相互保有協定を締結しておきながら、2007年にスターアライアンスに加盟した。この加盟には、CAの国際線競争力強化の意図が込められている。

Øスカイチームのデルタ航空(DL)は、20155月、同じスカイチームの中国東方航空に出資して、スカイチーム間におけるマルチの契約よりもバイの2社間戦略提携を優先させた。この提携は、東方航空の基地がある上海浦東空港の発着枠を欲しかったDLが持ちかけた提携であると言われている。

Øワンワールドのアメリカン航空(AA)は、20173月、スカイチームの中国南方航空(CZ)に出資して戦略提携を結んだ。Gアライアンスの中で唯一中国の航空会社をメンバーに保有していなかったワンワールドの盟主でもあるAAは、中国の巨大市場のアクセスを強化するためにCZとの提携を欲したのだろう。

Øスターアライアンスの全日空(NH)は、20165月、スカイチームのベトナム航空(VN)との出資及び業務提携を契約した。この他NHは、スターアライアンス以外の11社と提携している。

Øワンワールドの日本航空は、スカイチームのエールフランスとコードシェアを実施している他、ワンワールド以外の12社と提携している。

 

LCCアライアンス】

  最近LCCがアライアンスを編成していると冒頭述べた。編成後わずか1年ちょっとしか経っておらず、提携内容が共同オンラインWebサイトの設置などの未だごく限られたものになっており、乗継サービスなど加盟LCC間の幅広い提携は実施されていない。乗継サービス実施となれば、受託手荷物のデリバリング・キャリアから乗継先のレシービング・キャリアへの仕分けと移動が必要になる。手荷物を一括取降し到着空港のバッゲージカルーセルまで、まとめて移動させるのとは訳が違い、乗継空港に於けるグランドハンドリング作業が大幅に複雑化、それだけコストが余計にかかることになる。低コスト運営最優先のLCCにとっては出来ない相談だ。また、どちらかといえばマイレッジなどの顧客褒賞制度の採用にも二の足を踏んでいるLCCが、コストがかかるGアライアンスなみのマルチ提携を導入して行くのか些か疑問である。

 

 結局LCCのアライアンスの目的は、Gアライアンスの如くのアライアンス編成ではなくて、エアアジアやジェットスターやライオンエアのアジア太平洋地域の大手LCCが自国以外の域内各国に子会社群を設置(注)して、この地域全体にネットワークを張っている運営形態に対抗しようとしているのかもしれない。

(注)エアアジアは、マレーシアに加え、インドネシア・タイ・フィリピン・インド・日本に加え、ごく最近では中国河南省鄭州市にもLCCの合弁子会社を設置する。ジェットスターは、豪州に加えシンガポール・ベトナム・日本に、ライオンエアは、インドネシアに加えマレーシア・タイにそれぞれ合弁子会社を設置している。

 

Gアライアンスの制度疲労】

 さて、Gアライアンスの今後の見通しはどうなのか? LCCの拡大、加盟航空会社数の増加、そしてコンソリデーションの進展よるビッグ3の誕生が、Gアライアンスの効果を減じていると書いた。これらの中でも特にLCCの拡大が、Gアライアンスに今後も大きな影響を与え続けるだろう。FSCのドル箱路線である北大西洋路線では、ノールエージャンエアシャトルやカナダのウエストジェットなどの長距離LCCが、米国欧州間で最低片道100ドル以下の格安運賃で参入しシェアを拡大しつつある。そうなって行くとGアライアンスはますます色褪せて、その価値が更に低下して行くかもしれない。20年ほど前に誕生したGアライアンスの制度疲労が始まっているようだ。

 

 

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