「飛ぶのは恥だ」とジェット燃料税の脅威

当分析はCAPAが2019年10月8日に発表した  

 

Flight Shame’ and the Jet Fuel Tax Threat

をJAMRが全文翻訳したものです。

 

                                     2019年11月5日

 

「飛ぶのは恥だ」とジェット燃料税の脅威

 

08-Oct-2019 

 

「気候変動によって発生するコストを賄う唯一の方法は、課税である。」スウエーデンの財務大臣マグダレーナ・アンダーソンの、2019年6月20日オランダが主催した炭素排出量の価格と航空税に関する会議でのコメントは、欧州の政治家や候補者の間に広がる見方を代弁して居る。会議はジェット燃料税を提案して居る。

 

スウエーデン語のflygskam、英語で「flight shame(飛ぶのは恥だ)」は、スカンジナビアから他の欧州各国に広がった、飛行に反対する運動を支える言葉である。これは、とりわけ先進国で、どんどん拡大する、飛行することは、気候変動に与える影響から、罪悪と恥辱の源泉だと言う感情を反映して居る。

 

スウエーデンは、2018年、一旅行毎の航空税を導入したが、アンダーソン女史はジェット燃料税を導入したいと考えて居る。一方で、2018年の税と航空が気候変動に悪影響を与えると言う社会に広がる感情はスウエーデンにおける航空旅行への需要を圧迫して居る。

 

世界の人口から言えば、ほんの小さな割合しか飛行機を使わないのだが、飛ぶ人にとっては、一人一人が、とても大きな割合で二酸化炭素排出量の責任を問われるとも言える。

 

「飛ぶのは恥だ」の結果、少数だが、増加する数の人々が、自主的な航空旅行を減らしたり、一切辞めたりする事態さえ起こって居る。世界の航空業界は、スウエーデンの動向を注意深く見守るべきである。 

Summary概要 

      航空業界は個々人のCO2排出量では高い比率を占める可能性がある。
一回の長距離便が人一人の年間排出量予算を上回る可能性がある。 

      個々人は今や、二酸化炭素排出量を低減させるために、ライフスタイルを大きく変化させ始めて居る。スウェーデンの反飛行キャンペーン「飛行無し」は拡大しつつある。

 

      スウェーデンの旅客需要は下落しつつある。大衆の感情の変化はスウェーデンで航空に課税する事を支持する様になって居る。ジェット燃料税は次の選択肢かも知れない。

 

航空業界は、個々人のCO2排出量では高い比率を占める可能性がある

 

航空業界が占める世界の二酸化炭素排出量は(2%から5%の間)、ほんの僅かなものだ。

 

然し、世界の人口のほんの少数しか飛行機は使わないので、個人の段階では、航空業界は不釣り合いに大きな二酸化炭素排出量を占めるとも言える。

 

その他の分野は、遥かに高い水準の排出量を生み出して居る:例えば、動物農業が約15%を生み出し、食料の生産では地球上の炭素排出量の25%近くを占めて居るのだが、人口の100%がこの分野に支えられて居る。

 

服飾とファッション業界は全ての炭素排出量の10%程度を生産し、急速に拡大して居る。繊維生産だけで、国際線の航空便と船舶便を併せたより多くの排気を創り出し、高度に汚染を惹き起こして居る;次いで、製品のおよそ60%が12か月以内に捨てられて居る衣類の廃棄がある。

 

一回の長距離便が、個人の年間二酸化炭素排出量予算を上回る可能性がある

 

旅行の距離の長さによっては、一回の飛行が、一個人に起因する年間のその他の全排出量より多くの二酸化炭素を創出しかねない。IPCCは、今世紀の終わりまでに、地球温暖化を2以下に抑える事を目標とするパリ協定を達成するために、世界中の一個人当たり平均二酸化炭素予算を、年間2.3トン以上にならないよう推奨して居る。

 

ドイツの非営利企業アトモスフェアは任意の相殺プログラムを提供し、また世界のエアラインの指標を二酸化炭素排出の効率性から「アトモスフェア・エアライン・インデックス」を通じてランク付けして居る。同社は、旅行者がエアラインを選ぶ際にはこの指標を使うよう推奨して居る。

 

アトモスフェア社に依れば、効率の最も低いクラスのエアラインで飛んだ場合、ミュンヘンとニューヨーク間の往復飛行で、一人当たり2.6トンの二酸化炭素を排出する(二酸化炭素と同等の排気と換算した、その他の汚染要素の影響を含む)。

 

同社に依れば、これは、IPCCの継続可能性の閾値(しきいち)を、そして一年間自動車を使った時の二酸化炭素排出量1.6トンを可なり超えて居る。

 

秤のもう一方では、デュッセルドルフとミラノ間の往復飛行便は、効率が中級クラスのエアラインでは、一人当たり210kgの、最低クラスでは360kgの二酸化炭素を排出する。

 

これはIPCCの年間許容量の10%より僅かに下であるが、それでもまだ冷蔵庫を一年間使った時(100kg)より大きく、そんな航空便なら、個人の二酸化炭素の排出実績に大きな追加をするのに、多くを必要としない。

 

人々は二酸化炭素排出を削減するために、生活のスタイルを大きく変え始めて居る

 

2014年のオックスフォード大学の調査結果では、中程度の肉食を菜食に変えると、一人当たり年間1トンの二酸化炭素排出を削減できると計算して居る。この削減量は、数回の近距離航空便、或は1回の中距離航空便利用ですぐに食い潰されてしまう。

 

環境問題を理由に菜食主義の食生活に変える事が人気を得始めて居る。同様に、小数だが増えつつある数の人々が、飛行による二酸化炭素の排出を埋め合わせようとする

 

スウェーデンの「飛行無し」キャンペーンは広がって居る

 

スウェーデンで始まった、「2019年 飛行無し」と呼ばれる(現在「2020年 飛行無し」に改訂された)キャンペーンは、2018年末までに飛行機に乗る事をやめるとの誓約に署名するスウェーデン人を15,000人も集めた。2019年には、10万人の署名を目指して居る。同じような運動がデンマーク、ノルウエー、フランス、ドイツ、カナダそしてベルギーで起こって居る。

 

この運動の英国支部が立ち上げられ、矢張り2020年に飛行無しと誓う人々を10万人集める事を目指して居る。2019年9月4日現在、キャンペーンの英国のウエブサイトでは、3,178人が署名したとある。

 

スウェーデンの旅客需要は落ちつつある

 

これらの数字は未だ小さなものだが、少なくともスウェーデンでは、「飛ぶのは恥だ」は、この単なる署名者数を超えて航空旅行へのマイナスの影響力を持ち始めて居る証拠が幾つかある。

 

2014年から2017年にかけて、スウェーデンでは旅客数が、順調に毎年5~7%伸びて来たのだが、2018年にはわずか0.2%の伸びに留まった。昨年の最後の4か月では、1.7%の減少となり、スウェダビアによれば、2019年最初の7か月には4.5%下落して居る。

 

2019年4月と5月にあった、SASのパイロットのストライキが旅客需要水準を圧迫して居るが、旅客数はこのストの前の7か月間、毎月減少して居たのだ。

 

二酸化炭素排出量:影響度の比較 

航空便の等級はアトモスフェア社の効率性ランク付け

 

CO2 100kg

 

1年間の

冷蔵庫

使用

CO2

200kg

 

C級航空便1700km

 デュッセルドルフ=ミラノ往復

CO2

360kg

 

G級航空便

同左

CO2

1,600kg

                  

年間

自動車

使用

CO2

2,300kg

                  

食物、居住、エネルギー

1人の

年間気候予算

CO2

850kg

 

C級航空便13,300km

フランクフルト=テネリフェ往復                 

CO2

1,450kg

 

G級航空便

同左

CO2

1,600kg

 

C級航空便16,550km

ミュンヘン=ニューヨーク往復

CO2

2,600kg

 

G級航空便

同左

 

 

大衆の感情の変化が、スウェーデンの航空への課税を支持して居る

 

20184月、スウェーデンの航空税の導入は確かに需要に悪影響を与えて居るが、これは環境への懸念に根ざし、ACI Europe(欧州国際空港評議会)が「この国の航空交通に対する姿勢が変わりつつある」と評したものと複合されて居るのだ。

 

更には、航空業界が環境に与える影響に対する、同じこの姿勢がスウェーデン政府に、需要を減らして、気候変動に対応するために導入した課税への動機を与えて居るのだ。

 

この税が導入された時、スウェーデンの世論調査によると全人口の過半数がこれを支持して居る。

 

航空税を立案した、スウェーデンの財務大臣、アンダーソンは、環境に関する課税というものは前向きというより寧ろ、後ろ向きの性格になり易く、排気ガスを減らす為には投資が必要であると認めて居る。彼女は環境税と言うものは、その結果が公正である事を確認するためには、注意深い分析が必要であると認めて居る。

 

次はジェット燃料税の可能性あり

 

それにも関わらず、アンダーソン女史は、オランダが提起した、ジェット燃料に課す二酸化炭素税を導入すべきだと言う案を支持して居る。これは現時点では、ICAO及び二国間合意に阻まれて居るが、ハーグでの炭素の価格設定と航空課税に関する会議は、EU加盟諸国の間で、この案に支持を広げる事を目指したものだ。

 

この会議は、欧州委員会が、欧州の航空税、ジェット燃料税、そして炭素の価格設定について検討するよう働きかける事を目指して居る。オランダ、スウエーデン、そしてフランスの閣僚達が、このイベントを推進して来た。

 

この論議は、ジェット燃料税が、気候変動にのみ向けられたものでは無く、自動車には燃料税があるが、航空機には無いと言う輸送の形態の間の不均衡と思われる現実にも向けられると言うものだ。

 

アンダーソン女史は言う、航空燃料に課せられる税は、彼女の言う「有害な補助金」を排除し、従って健全な競争にも資するものだ。

 

スウエーデンの航空業界は対応しようとして居る

 

スウエーデン政府の取り組みは、同国航空業界が、気候変動に立ち向かう努力を拡大する為のインセンティブを増やそうとして居るように見える。

 

この国の空港当局スウェダビアは、2020年までに全事業を化石燃料無しとし、2045年までに、航空交通量全体を化石燃料を使わないものとする目標を支持して居る。

 

スウェダビア及び調査機関RISEとともに、SASは植物燃料の大規模な生産を開発するための研究をし、2030年までに国内消費の全てに相当する植物燃料を使用する事を目標とするのを支援して居る。同社はまた、電気の力で動く航空機の研究について、エアバスとの覚書に署名して居り、また常顧客プログラム会員にカーボンオフセッティング(炭素相殺)を提供して居る。 

 

スエーデン:年間旅客数2009年〜2019年(旅客数=棒グラフと伸び率=線グラフ)

 

スウェーデンが世界の航空への、そして業界への行動要請のケーススタディになる

 

勿論、航空業界は既に気候変動への影響を減らす事への強いインセンティブを持って居て、スウェダビアもSASにしてもそれぞれが採って居る行動についても決してユニークと言う訳では無い。

 

にも拘らず、十代の活動家、グレタ・トゥンベリの故郷であり、飛行しないキャンペーンの発祥地である、スウェーデンで盛り上がる環境意識は多分、世界のどこか別の場所に比べ、航空業界をより難しい状況に追いやって居るだろう。

 

スウェーデンは、航空業界に携わる全ての者にとって、必読のケーススタディの役割りを演じている。

 

航空税は欧州のその他の地域でも導入されて居る。いくつかの国では、減じられたり取りやめられたりもして居るが、若し、ジェット燃料税の欧州内の合意が達成されない場合、オランダでは再導入されるという話もある。

 

航空税は需要にとっては有害であるが、今や抗しがたい流れである事を証明しつつある。

 

税が増えると言う脅威が、航空業界にとっては、単に半減させるより、寧ろ2050年迄に純粋排気量ゼロを目指して、必要な科学技術の開発を、より大規模にそして迅速に進歩させる触媒となるよう、更なる圧力を高める事になる。

 

この様な政府、民間による介入が、航空業界自身は既にやる気になっている、単位排出量を減少させると言う大義名分を助けるのか否かはまた別の問題である。それは確かに、現在の幸福な状況が観光事業の拡大に依存したものである、多くの伸び盛りの市場にとっては、不吉な音色に響くだろう。

 

 

以上

 ‘Flight Shame’ and the Jet Fuel Tax Threat