「JAMR研究員による2016年頭の小論文・随筆など」

今年の私の注目! ジェットスタージャパン

 

2016.1.6

航空経営研究所 所長 赤井奉久

 

ジェットスタージャパン(Jetstar-J)は日本のLCCとして急激にネットワークを拡大、事業規模(旅客、収入)はPeachを抜いてトップに立った。

 しかしながら収益性と財務状況の改善は捗っていない。

Peach2年連続黒字を計上、資金的にもゆとりがみえるのに対して、Jetstar-Jは大幅赤字が続き、度々注入された資金も消えかかっている。JALJetstar-Jの黒字見通しが明確でないまま資金を提供することには限りがあろう。黒字化して資金流出を止めること、これがJetstar-Jの経営課題である。

 

Jetstar-Jの浮沈は単なるLCC1社の問題ではない。

今や世界の趨勢であり、日本の航空市場の活性化をも担っている「低価格ブランドの普及」の流れを堰き止めることになるからだ。加えて旅客シェアが縮小しているJALグル―プで唯一「低価格ブランド」を担うJetstar-Jが弱体化した場合、ANAとの格差が一段と拡大して2社寡占から1社独占に向かうことになろう。これらは日本の航空界にとって忌々しきことであり、発展を続けるアジア中で日本だけが取り残されることになりかねない。

 

再建への楽観的な見通しも、数値でみれば黒字化は容易でないことがわかる。

「収入-費用≧0」にすればいいわけだが、この式は「(搭乗率-B/E)x事業規模≧0」に置き換えられ、B/E(ブレークイーブン利用率)は「座席コスト÷収入単価」で算出される。

その「搭乗率-(座席コスト÷収入単価)」部分を数値化(2014年度)すれば以下のとおりとなる。

  搭乗率76%-(差席コスト8100円÷収入単価9000円)x100% ⇒▲14ポイント

 

 私が考える黒字化のための数値は以下のとおりである。

  搭乗率80%-(差席コスト7600円÷収入単価9500円)x100% ≧ 0

 

 即ち収入単価を今より+500円上げ、座席コストを▲500円削り、平均搭乗率を80%にするという3つの条件を全て達成することであり、これで漸く収支均衡になる。もしそのうちの一つが未達ならば、他の要素でそれ以上に達成する必要があるのだ。 

 

 座席コストは、少なくともPeach並みにする必要があろう。加えて燃油価格の低下は追い風ともなろう。

収入単価引上げと搭乗率向上の同時達成には、最低価格保証等の戦略そのものの修正も必要かもしれない。即ち、低価格に過度に依存するのではなく、消費者に安心、使い易さ、親しみを持って貰えることである。既存会社の運賃は十分高い(LCC運賃の倍以上)。

「安心、使い易さ、親しみ」との合わせ技で消費者が喜んで負担できる「お得感ある運賃」を創出することは可能だろう。現にPeachがそうしているからだ。

 有名タレントにおカネをかけるコマーシャルよりも、運航への安心を高める地道な努力にカネをかけ、それが滲み出るような広報活動が今は好ましいだろう。

 本国オーストラリア・スポンサーの経営方針で突き進むのはこのくらいにして、そろそろ日本のスポンサーが力を発揮したらどうだろうか?

 

以上