「JAMR研究員による2014年頭の小論文・随筆など」

 

空港が無人化=「ひとりだち」が求められる利用者

 

                                      主席研究員  森崎 和則

 

  少々古い話ではあるが、2013828日付けのウォールストリートジャーナル(以下WSJ)日本語版に、空港のセルフサービス化についての記事が掲載されていた。記事の主旨は「米国の航空会社は、空港の手続きの自動化を進めており、空港に到着した時から飛行機に搭乗するまでの間、航空会社職員に一人も会わないですむシステムを築こうとしている」という内容だ。

 

今や航空利用者にとってインターネット予約は特別な手法ではなくなった。さらに最近では予約のみならず、搭乗手続きもインターネットを介した「WEBチェックイン」が浸透してきている。一方で空港に直行した場合は、航空会社のカウンター近くに並んだ自動チェックイン機(多くの航空会社は「キオスク」と呼んでいる)で顧客が自らチェックインをする。ここまでは日本でもすっかりお馴染みのスタイルである。

 

 

 

jetBlue航空のキオスク(ワシントン、ダレス空港にて)

 

手荷物料金を徴収する米国の国内線では「キオスク」で搭乗手続きをすると、次に「あなたは手荷物を預けますか?」との質問が画面に出てくる。「Yes」を選択すると次に個数を聞いてくるので、個数を指定すると該当する料金が表示されると同時に支払方法を選択することになる。クレジット・カードによる支払を選ぶと、機械の下にあるクレジット・カード読み取り機にカードを通すだけで精算ができ領収書が発行される。先に出てきた搭乗券と領収書を持って手荷物専用カウンターに持って行くとスタッフが手荷物札(タグ)を付けて預かってくれる。

 

冒頭で紹介したWSJがレポートしている新たなセルフサービスシステムが「セルフタギング」である。これをいち早く導入したのがアラスカ航空でシアトルとサンディエゴの両空港への導入を皮切りに、国内空港に展開をしている。何がセルフかと言うと、旅客自身がタグをキオスクから印刷して手荷物に付け、タグを付けた手荷物を専用カウンターに持って行ってスタッフに渡すというシステムだ。同様のシステムの導入をアメリカン航空でも計画しているという。

 

 

 

DELTA航空のチェックイン機…航空会社による使い勝手に大差はない

(ニューヨーク、JF・ケネディー空港にて)


 

ALASKA航空のセルフタグ・コーナー(シアトル空港にて)

 

さらにWSJによるとラスベガスでジェットブルー航空がセルフボーディングゲートを正式に実施したとある。これは搭乗が開始されると旅客自身が搭乗券を改札機にスキャンして機内に向かうシステムだ。IATA(国際航空輸送協会)では2020年までに世界の乗客の80%に対して完全なセルフサービス方式を提供したいとしている。そういう時代が現実のものとなれば、利用客が予約をしてから目的地に到着するまでの間に出会う航空会社スタッフは数名の客室乗務員だけになるかもしれない。

 

日本でも国内線に本格的なLCCが飛び始めてから、搭乗時間の厳守、「キオスク」での手続きや手荷物料金の徴収などと新しい方式が導入されている。初めてLCCを利用する人たちはこのような新しい方式に対して目に見えないストレスを感じることだろう。しかし一度経験してしまうと「こんなものか」というのが筆者の感想である。ピーチの井上社長は予てから「航空を利用した新しい交通モード。簡単に言えば“空飛ぶ電車”」と気軽な利用を呼び掛けている。空港におけるセルフサービスの進化も“駅”なみになるのも時間の問題だろう。世界の航空業界では、企業間の競争激化や燃油費の高騰などに対処するため、必死になって収入の拡大とコスト削減に知恵を絞っている。中でも人件費の抑制効果が得られるシステム化の推進は当面続くだろう。

利用者にとって、ますます「ひとりだち」が求められる時代が到来しそうだ。

 

 

タグを付けた手荷物は専用窓口で預ける(シアトル空港にて)

 

 

以上