「JAMR研究員による2014年頭の小論文・随筆など」

 

SFOでのアシアナ航空機事故に思う事

 

主席研究員  風間 秀樹

 

2013年7月6日サンスランシスコ国際空港で起きたアシアナ航空のBoeing777着陸失敗事故の原因究明は現在継続中であるが、これまでに報道された幾つかの情報を元に私なりに分析したい。

事故の直接的な原因はGo-Around(着陸復行)操作の遅れである。空中を飛ぶ飛行機は正常な着陸が出来ないと判断されればその着陸を断念しもう一度やり直せば済むことである。今回の事故はその判断の遅れが何故に生じたかということである。

 

技術の世界はどこでも一緒で、未熟な後進者にきちんとした管理の元「やらせる」ことにより技術が伝承されていく。そのための規定は程度の差こそあれどこの航空会社でも定められているが、現場で起こることの全てを網羅している訳ではなく、その状況下における判断が機長に求められている。今回左席にて操縦を任されていたパイロットの知識不足は弁解の余地は全くないが、右席にいた教官役機長がその職責を果たしていないことが問題なのである。飛んでいる飛行機にとって速度は命である。着陸のための最終進入で規定の速度を下回った時、たとえそれが自動操縦によるものであったとしてもその状況を一瞬たりとも放置するなどまともなパイロットであればあり得ない。

 

しかし1万時間以上もの飛行経験があるこのアシアナ航空の機長はそのミスを犯した訳だ。その理由の一つに私は自動化に対する過信があったと思えるのである。

 

その昔、飛行機の操縦室には正副操縦士、航空機関士、航空士、通信士併せて5人が乗務していたが、現在では正副操縦士の二人だけとなっている。それは人間の仕事を機械に置き換える、正に自動化そのものである。

 

私たちの日常は家電製品は勿論のこと、様々な自動化された「もの」に取り囲まれその便利さを享受している。しかしその反面、何故そうなるかという途中の回路をスキップして何も考えずに操作しているのが現実である。パイロットも人間だからどんなに教育を施し経験を積んでもそういった罠に嵌ってしまうことがあるのだ。

やったつもり、そうなっているはず、などなど誰にでも経験があるに違いない。

その一瞬の隙に悪魔が忍び寄ってくるのだ。

 

ボーイングのコクピット設計者は次のように証言している。「  航空機が危険な状況に陥った時、ボーイングはパイロットに対し警告を発してパイロットをアシストするが自動的にシステムがパイロットの肩代わりをするようには設計していない。」

この事故から何を学ぶかは人それぞれだが、学ぶべきことは沢山ある。

 

以上