「JAMR研究員による2014年頭の小論文・随筆など」

 

乗り越えられるか? 「8,000x 80%」の壁

 

~ LCC定着の条件 ~

 

                                    所長  赤井 奉久

 

1. はじめに 

 

 2周目(就航2年目)の日本のLCCは第3コーナーを廻ってホームストレッチに入った。

 先頭を走るPeachは安定走法に入ろうとしており、Jetstar-Jが懸命に追いかける。

 息切れしたAirAsia-JVanilaに走者が替わった。この先どうなるだろうか?

 LCCの定着如何が大手2社をはじめ中堅4社を刺激することは確かだ。

 そして日本の航空市場全体の活性化スピードに影響することも。

 

2.. 黒字化の課題

 

 初年度の業績(営業損益)は、Peachが▲9億円の赤字(H253月まで)、Jetstar-J

 それは▲90億円(6月まで)、AirAsiaは▲33億円(3月まで)であった。 最大の課題は

 黒字化だ。

 黒字化に必要なものは何か? それは、

 「収入平均単価8,000円と搭乗率80%」の同時達成」だ。

 即ち8,000円 x 80% ≧ 座席コスト6,400円」の実現だ。

 

 高コストを余儀なくされている日本では、座席コスト7,000円の壁は厚い。

 これにあらゆる努力の付帯的収入で補ったとしても6,400円が限界であろう。

 他方、運賃が既存会社の半額を超えればLCCの魅力も薄れる。

 通年での搭乗率でほぼ実現可能なラインは80%であろう。

 収入単価8,000円、搭乗率80%、座席コスト(付帯収入で補う分を含む)6,400円、これを超え

 た分が利益となるのだ。

 

3. 達成の条件

 

 ① 運航品質が大前提

   利用者側の必須条件は「確実に目的地に到達できること」である。

   「欠航」は特にNG

   「遅延率(15分を越す遅れ)」は程度による。16分は受容されたとしても3時間はNG

   大きな遅延は最後には欠航に繋がっていくため、欠航率が特に重要な指標となろう。

 

   この夏期のPeachの欠航率(国内線)は国内全社の中で最も低い0.16%であった。

   遅延率は16%と最悪レベルであったが、搭乗率は80%をクリアしたようだ。

   他方Jetstar-Jは、遅延率ではPeachの半分(8%)ながら、欠航率は1.13%とPeach7

   であった。成田の門限ハンデがあるものの、遅延の程度が大きかったものと推定され、これ

   がPeachとの搭乗率差の一因にもなっていると思われる。

   (欠航率、遅延率ともに最悪のAirAsia-Jは論外)

   運航品質確保がLCCの生命線といえるのだ。

 

 ② 格安感のある運賃

 

   低コスト化⇒超格安運賃化が容易な海外と比べて、高コストの日本はそれが難しい。

   爆発的割安感を演出し難いのだ。

   同じ8,000円の運賃差でも、海外のように12,000円(既存会社)に対する4,000LCC

   と、16,000円に対する8,000円では重みが異なる。

   Ryanairのような「格安運賃」一本槍で80%を達成するのは日本では苦労が大きい。

   格安度は若干緩んでも、消費者の満足度(お得感)で補う「格安感のある運賃」で勝負する

   方が賢いのだ。

  そのちょっとした創意工夫やお得感が、ちょっとした搭乗率の上積みやちょっと高い運賃の

  容認に繋がる。そしてこれらは収益性の改善をもたらす。日本のLCCには、この「ちょっとした」

  で利益を稼ぐ心意気を期待したい。

  さしづめこれまでは、「格安運賃」のJetstar-Jと、「格安感運賃」のPeachといえるのではなか

  ろうか。

 

  (重要なイールド管理)

   980円とか1,980円といった「話題運賃」の提供は需要開拓には必須であり、これを積極的に

   行ってるJetstar-Jを評価したい。大事なのは話題運賃の座席コストとの差を埋め、空席分の

   コストをカバーする普通運賃をどうコントロールするかである。

   夏期以降の運賃状況をみると、各LCCともにこれが進んでいるようだ。

   年末年始の予約状況(1213日現在)をみると、Peach68%と低いが、これこそ今後の比

   較的高めの旅客を見通したイールド管理の結果と思われる。

 

4.今年のLCCの展望

 

  Peachは「8,000円 x 80%」を達成して黒字化する展望が開けた。

  身の丈を縮めて再出発したVanilaは、赤字を蒙らない程度での事業展開となり、市場への影響

  力は当面限られたものに留まるであろう。

 

  今年最も注目し期待もしたいのはJetstar-Jだ。

  Jetstar-Jはこの2つの指標にともに今一息の状況にある。

  この先赤字が更に膨らみ黒字化も展望できないようだと、規模縮小や、場合によっては経営の

  転換も余儀なくされよう。もしそうなるようだと、巨大な首都圏市場が、LCCが世界的に産み出

  している航空活性化の波から取り残されかねないのだ。

 

 今年はLCC4社目の春秋航空日本も就航する。

  各社が「8,000円x80%」を達成して、日本の航空市場活性化の原動力になることを願って

  やまない。

  

                                                   以上

海外事情

 

今週号では、「7. アゴダの多角化戦略」、「8. ブッキング、民泊の新戦略」、「13.ブッキング、法人旅行テックプロバイダー買収」、「15. ブッキング、配車アプリのグラブと提携促進」と、BKNGの関連ニュースが4つもあった。BKNGの「Connected Travel」戦略の遂行が進んでいる。BKNGの場合は、Internet of Things (IoT)が、Internet of Travel (IoT)と読み替えているように感じられる? 

 

それよりも、3つの記事が印象深い。「10. 本当のディスラプション」、「22. ソーシャルメディアと旅行」、「24. 東南アジア市場の2つの問題、OYOとインスタ」の3つだ。

 

10. 本当のディスラプション」では、ディスラプティブのプロダクトは、必ずしも既存企業よりも良いわけではなく、今まで既存企業が不経済なために手を出さなかったサービスのニーズに取り組んだか、以前は特定できなかったニーズのいずれかであると説いている。そして、ディスラプティブを起こしているのは、テクノロジーでなくて、創造性を発揮したクリエイティブなモデルであることを再確認させてくれた。

 

22. ソーシャルメディアと旅行」は、旅行とソーシャルメディアの相性が抜群に良く、旅行業界がソーシャルメディアを誰よりもうまく使っていると言っている。ソーシャルメディは、人と人の繋がりをインターネットで補完するコミュニーケーションサービスなのだから、顧客とのエンゲージメントに優れているのは当たり前だ。これを上手に使っていないとすれば問題だ。

24. 東南アジアの2つの問題、OYOとインスタ」は、この地区における観光公害の実態を報告している。オンライン旅行ガイドTravelfishStuart McDonaldが、過去15年間で悪化している観光公害の実態を、歯に衣着せずのタッチで断罪している。(編集人)

海外事情12月9日号 

 

2つのIATA NDC標準に関する記事「4. NDC進捗状況」、「16. 航空会社の3つのテクノロジートレンド」が有った。4.の記事は、NDCは安定的に進展しているものの、乗り越えなければならないハードルがまだまだ存在すると述べている。その反対に16.の記事は、開発進展状況は計画通り順調だと述べている。後者は、IATAが主催した航空会社リテーリングシンポジウムに関する記事のため、多分にIATA寄りになっていると思われる。4.がより正確に実態を表しているのだろう。「技術的な問題よりも“人と金と政治”(people, money, politics)の問題が進展を阻んでいる」と言っている。NDC APIで接続して流通経費をできるだけ削減したい航空会社と、反対していたNDC に今では積極的に対応して、新たに登場したアグレゲータとの競争に勝利するためと、航空会社に“中抜き”させないための両方で頑張っているGDSとの、これからのせめぎわいが激しくなるだろう。 

 

グロバールOTAの第3四半期決算で、EXPE22%大幅減益となった「9. エクスペディア 3Q 減益」。その反対にBKNG10%増益した「15. ブッキング3Q、増収増益達成」。どちらもnet incomeベースだ。EXPEの減益は、GoogleSEOに関するアルゴリズム変更が影響しているという。BKNGは、このチャネル規模がそんなに大きくなく影響が軽微であったという。TRIP3Qも減収減益となった「12. トリアド、トリップ・コムと中国合弁設立」。TripAdvisorブランドホテル収入が、Google自身のホテルプロダクト検索増加が原因で14%減少したのだ。Googleの旅行領域参入がますます本格化しているようだ。

 

117日、3社の株価は、EXPE27%BKNG8%TRIP22%、と値を下げた。市場は、オンライン旅行市場におけるOTAの今後の競争力維持を懸念しているのだろうか。OTAは、サプライヤー直販拡大はもとより、Airbnbなどの新たな販売モデルの台頭やGoogleなどのグローバルプラットフォーマーとの競争激化に直面している。(編集人)