米国航空事情2015 (2) 【エアライン記事の読み方】

米国航空事情2015 (2)

【エアライン記事の読み方】

2015527

() 航空経営研究所

主席研究員 稲垣 秀

 

このレポートは前回の(1)に引き続き、米国の民間航空の現状をご紹介する。少し間が空いたことをお詫びする。 前回のレポートの要約は、

 

・航空産業の全世界の付加価値は2兆4千億ドル。GDPの3.3%を占める。

・米国は年間旅客数12億人で世界一の航空大国。将来も世界を牽引するだろう。

・米国は国土が広大。(日本人の常識の外)人口は多く、経済力も大きい。

・比較的近距離のニューヨーク-シカゴ間でも東京-ソウルに匹敵する距離。

・欧州やアジアの既存航空会社はLCCとの競争に疲弊。米国ではその兆候がない。

・米国の大手4社のシェアは約70%で寡占状態。5位以下の会社との差が開く。

・LCCサウスウエスト航空は米業界第3位。近年は運賃単価が大手他社に接近。

・ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスが米国航空網の大拠点都市。

・航空ネットワークの裾野は広く、人の流れは、特定路線への集中傾向はなし。

・アムトラック(高速鉄道)は日本と異なり、輸送手段としての役割が非常に小さい。

・高速バスは長距離都市間輸送では役割が小さい。

・500km超の都市間移動はもっぱら航空が担い、他の交通手段との競争がない。

 

ここからは米国の大都市間航空交通の様子を細かく見ていくことにする。

 

8.米国の主要航空会社のネットワークと拠点空港の分布

 

この項以下では、米国の大きな経済圏(2千億ドル超のGDP規模:2014年)を持つ16都市とそれらの都市をつなぐ120路線を調査した。まずは、主要航空会社がどこの都市に拠点を置いているか、その重なりの様子はどういった状況を調べる。


(注)16都市に特別の意味があるわけではない。イメージしやすさのために東京、大阪、名古屋、福岡都市圏クラスの都市圏が16あるという意味である。また、路線数の120は16都市を相互に結ぶ線を算術的に計算したものである。置いているか、整理した表である。

 

右の表は米国の航空会社上位6社が米国本土(アラスカ、ハワイを除く)内のどの都市に拠点空港を置いているか、整理した表である。


尚、この拠点空港はどの都市に路線が集中しているかを後述の各社の路線ネットワーク図を筆者の目で選んだものであり、定義されたものではない。 

 

16都市中、経済規模が最下位のサンディエゴを除く15都市にはいずれか会社の拠点空港があることがわかる。 当然だが、大都市には複数の航空会社が拠点空港を置いていることもわかる。 拠点空港がある都市は必ずしも16大都市に限定されず、その他9都市にも大手航空会社の拠点空港が存在する。米国本土(アラスカ、ハワイを除く)には、「大都市15」プラス「その他9」で合計、24の拠点空港のある都市が存在する。

 

また航空会社別にみると、最大はアメリカン航空(USエアと合併後)の9都市。続いて、ユナイテッド航空8都市、サウスウエスト航空5都市、デルタ航空5都市、ジェットブルー3都市、アラスカ航空2都市の順になる。3大都市圏(ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ)を除く各都市では、ほぼ大手航空会社間で拠点空港を競合を避けシェアしている。


 

また、後発のサウスウエスト航空は大都市ではシカゴに拠点を持つが、あとは他の航空会社との競合を避けて、GDP順位表の上位16都市から外れた、他の航空会社が拠点を持たない4つの大都市に拠点空港を持つ。 そのうち2都市、ラスベガスとタンパは、日本でいえば那覇に似た、観光・保養の目的地である。 また、サウスウエスト航空はバブ・アンド・スポーク路線経営をしている他の大手航空会社3社と比べて特定拠点空港への路線集中の度合いは低く、全土に路線網を拡大している。 後発企業ということもあるだろうが、ハブ・アンド・スポーク路線経営にとらわれず、収益性の高い路線選択と実行性のある航空機運用のバランスから路線展開を進めているのかもしれない。 

 

9.大都市ごとの航空各社の旅客シェアと大手各社の路線網地図

 

大都市ごとに見た航空各社の旅客シェア一覧と各社の路線網地図を整理した。 大都市発着の航空旅客の各社のシェア一覧を整理したグラフである。 このグラフでは縦軸は旅客数の多い都市順(右に棒グラフで表示)に上から並べてある。 前ページの「大都市と各航空会社の拠点空港の関係」と対照してみると、当然であるが、航空会社ごとの拠点空港の配置とそのシェアは符合している。 

 

複数の航空会社が拠点空港とする都市では特定の航空会社に過度に旅客が集中することはなく、旅客数は各社に分散している。 一方、1社だけが拠点空港としている都市ではその会社のシェアが極度に高い。このグラフでは、国内線旅客数上位24都市が並んでいるが、その半数12都市でシェア第1位の航空会社1社で50%を超えるシェアとなっており、また上位2社の合計シェアが70%を超える都市も同じく12ある。

 

 

下には上位6社の路線網地図を掲載した。 これらの地図から各社がそれぞれ拠点空港を配置し、ハブ・アンド・スポーク路線網を構築している様子がよくわかる。 特に大手4社の路線網は米国本土内に広くかつ、密度濃く張り巡されている。 この路線網は、米国のように広大な国土をもつ国家では、都市間移動において、航空輸送だけが実質的に人々の期待に応えうる移動手段であると考えるべきだろう。 また、米国において、長距離を移動する航空とその先で短距離で移動するレンタカーとの組み合わせが、長距離移動における基礎的なインフラとして機能していることにも納得できる。

 

大都市であるニューヨーク、ロスアンゼルス、シカゴ、ワシントンの4都市および観光目的地でもあるマイアミには複数の航空会社が拠点を置いている。 また、アトランタやダラスなどの大都市では航空会社の重なりは少ない。 それぞれの航空会社が国内線全体のマーケットを都市単位でシェアし、競争優位性を確保しようとしている様子がよくわかる。

 

 

米国大手航空会社6社のネットワークと拠点空港(各社ホームページ)




10.米国大都市間の航空交通事情

 

この項は、上述の16大都市を結ぶ120路線を状況調査したものである。前項の大都市ごとの航空会社の営業シェアのグラフによれば、都市を出入りする航空旅客数は、概略では都市の経済規模に符合している。 ただ、デンバー(中部)やシャーロット(東部)など経済規模上位の16都市に含まれない都市や観光目的地であるオーランド、ラスベガスも航空旅客数の上位に顔を出している。 その意味で、ここで扱う120路線は厳密には幹線とは言えないだろうが、それを踏まえた上で米国の航空の現状の傾向をご覧いただきたい。

 

調査方法は米国のオンライン旅行サイトのエクスペディア社のホームページをみて、調査日から30日先の次の火曜日を指定して、運航便と運賃を調査した。 このタイミングは運賃が最も安く、通常ではどの便にもまだ席が残っている状態にある。 


また、対象調査日を週末でない火曜日にした理由は、曜日を特定することで曜日間でばらつく影響を除き、また平均的な曜日を調査するためである。 エキスペディアの販売対象には大手航空会社6社の内、サウスウエスト航空を含まないため、調査日を同一にして、そのホームページから調査した。 ちなみに、調査したのは2月中旬で、対象日は3月中旬である


地図はその16都市、120路線を表したものである。「幹線路線」を具体的にイメージしてもらうために掲載した。


幹線路線の概況


表は幹線路線の概況を整理したものである。ここで取り上げた120路線の単純平均距離は2,136km、東京-台北より少し遠い距離である。 その加重平均となる全ての運航便の平均距離は1,657kmで東京-那覇の少し先になる。 遠距離路線より近距離路線のほうが便数が多いため、便の平均値が路線の平均値より500kmほど短い。


路線の中で最長距離路線はシアトル=マイアミ路線(4,367km)で、最短路線はニュヨーク=フィラデルフィア路線(126km)である。最長距離路線は東京=ホーチミン間の直線距離に相当する。 アメリカ大陸の東西横断は、日本=東南アジア間とほぼ同じ距離であり、加えて時差が3時間ある。

 


【幹線路線の便数】

この120路線の1日の総便数は5,158便である。 各路線で1日平均21.5(往復)便の航空便がある。 運航機種はツインアイル(中型機)はほとんど使われておらず、大半が737、A320といったシングルアイル機で、一部の近距離便はリージョナル機で運航されている。 全体の平均的な姿は、大陸内は昼間帯運航で、シングルアイル機を使って1時間に1本以上の便が提供されていることがわかる。

 

最多便の路線はロサンゼルス=サンフランシスコ線(1日100(往復)便)であり、逆に最小便の路線はマイアミ=サンディエゴ、フィラデルフィア=サンディエゴ線(1日各1(往復)便)である。


 

また、120路線の所要時間の分布はグラフのとおりである。 ほとんどの路線は所要時間1時間から7時間の間にあり、ポアソン分布型になる。 尚、便の加重平均では所要時間は2.9時間と3時間弱である。

 

各路線で運航便数がシェア1位の会社は、平均的にはその路線の全便数の61.2%の便を運航している。 また、運航便数がシェア1&2位の会社は、平均でその路線の全便数の75.8%を運航している。 1路線平均で1日21.(往復)便が運航されているので、平均で、シェア1位の会社は、その内13.(往復)便を、シェア1&2位の会社は16.(往復)便を運航していることになる。

 

【便数の多い幹線路線】

 

下表は便数の多い幹線路線を上位から10路線ピックアップしたものである。もっとも便数の多い路線はロサンゼルス=サンフランシスコ線で、1日100(往復)便が運航している。この路線は参入航空会社数も7社あり、1社あたりの平均運航便数も14.3便ある。

ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴといった都市の名前が目に付く。


【幹線路線の各社の状況】


国内幹線における各社の状況を整理したものが下の表である。表の縦軸に各社が並べてある。「路線数」は全路線120路線の内、何路線に就航しているかという数字であり、その次の「就航割合」が全120路線に対する就航の割合である。 大手の中ではアメリカン航空(AA)が71%と最も高く、ユナイテッド航空(UA)とデルタ航空(DL)が50%台、サウスウエスト航空(SW)は44%と低い。 

4列目は路線あたり平均何便運航しているか、言い換えれば航空機をどのくらい特定の路線に集中しているかを示す数字であるが、ここではデルタ航空が1路線あたり平均9.7便の運航と、もっとも集中化傾向が強く、逆にサウスウエスト航空は4.8便と、集中化の度合いが低い。 次の便平均距離、便平均時間はデルタ、サウスウエストがもっとも小さく、平均時間2.6時間、1,400kmと、短距離指向である。 一方、トップのユナイテッド航空が平均時間3.1時間、1,700kmと、30分、300km程度の差である。

 

「シェア1位*%」「シェア1/2位」欄は、各路線でシェア1位、シェア1&2位の会社がその路線の総便数の何%を運航しているかを示している。 1位の数字は50~80%、1&2位の数字は80~90%の範囲にある。 ここから、既存の大手航空会社は現在3社あるが、就航路線毎に棲み分けて、路線ごとには2社の競合に留め、3社間の競合はなるべく避けているようである。

 

11.米国大都市間の航空運賃

 

この項では、米国大都市間の調査として、主要120路線の航空運賃データを路線単位でピックアップし、調査した。

 

次ページの2つのグラフは米国国内の主要120路線の往復運賃(中央値)とその直線距離をプロットしたものである。 左のグラフはエクスペディアで調査した、サウスウエスト航空を除くすべての航空会社の運賃であり、右のグラフは、サウスウエスト航空のホームページで調査したサウスウエスト航空の運賃である。 両者は情報ソースが異なるため、あえて別に集計し、それぞれグラフ化した。 また、左のグラフは便ごとに提示されている運賃データであるが、既存大手3社の便数規模が全便数の80%を占めているため、この中央値データは、ほぼメジャー3社の運賃を示しているといえる。 


ちなみに黒い線は1次近似直線(計算値)である。 左グラフだけにある赤色の破線は、ボトムに溜まっているデータの中心と思われる線を目算で引いたものである。 これらの2つのグラフを見ると、左のグラフ(主に既存のメジャー3社)では、グラフ上のプロットは2つに分類できるようである。 


一つはボトムライン(赤の破線)のまわりに分布しているプロットであり、もう一つがそこから泡のように上方に離れているプロットである。 推論であるが、航空券が一定以上売れ、搭乗までの時間軸で予め定めたスピード以上で席が埋まりはじめると、運賃が上昇を始め、その価格が売れ行きに応じて変動しているものと思われる。 この泡のように浮き上がったプロットは航空券の売れ行きのよい路線であると思われる。  

 

右のサウスウエスト航空の運賃プロットは直行便を運航している53路線に限定している。 そのプロットは、左のグラフとは分布が異なり1つの傾向に沿っているように見える。 おそらく、売れ行きによって価格を引き上げることをしていないので泡のように浮き上がるプロットが現れないのではないか、すなわち、両者はそれぞれ航空券の売り方が異なるのではないかと思われる。


これらのグラフから2つ特徴を読むことができる。 一つ目は左グラフ上に引かれた赤色の破線(ボトムに点在するプロットに目算で引かれた中心線)と右グラフの線形近似線(黒色の細線)がほぼ同じところを走っていることである。 これは、売り出しの価格自体は米国の在来航空会社とLCCであるサウスウエスト航空のあいだでは大きな違いがないことを示している。 

 

もう一つの特徴はこの線形近似線を見る限り、距離が倍になっても運賃は倍にはなっていないということである。赤の破線を数式で書くと、厳密さはないが、

 

     《(往復運賃ドル)= {0.08 X(区間距離km}120 》

 

の関係がある。 120ドルのY軸切片を持つので、区間距離が倍になっても必ずしも運賃が倍になるわけではなく、1,000kmで200ドルの運賃が、2,000kmでは280ドルになる関係になる。 

 

その結果、「区間距離あたりの往復運賃」は距離が伸びるほど安くなり、米国内線の最大値4,000km程度の範囲内ではこの影響は無視できない。 航空会社の経営診断には経営指標としてRPKやASKあたりの収入やコスト指標を用い、横並びでベンチマークするが、細かく見ると、それぞれの航空会社の国内線路線の平均路線距離の違いが経営成績に影響を与えているようだ。


【大手3社の運賃の状況】

 

また、航空会社共通に運賃を調べた結果を示したものが下表である。

 

 上段に示される既存大手3社の場合、全運航便の平均距離は1,657kmである。 ニューヨークからミネアポリスまでの距離、日本では東京から那覇の少し先までの距離に相当する。購入タイミングとしてはもっとも安く購入できる1か月前に購入した往復の平均運賃単価は339ドル(中央値:データを数値が大きい方から小さい方に並べたときに、真ん中の順番にあるデータ値)である。 同じ路線で便ごとの運賃を展開すると、会社により差がでることはなく、便の運航時間帯によって価格に幅が生じていることがわかる。 移動に便利な、売れ行きのよい時間帯、たとえば週末を挟んだ旅行に都合の良い昼間の時間帯は運賃が高く、また、売れ行きが悪いと思われる時間帯、たとえば空港までの公共交通機関のアクセスや治安に難があるような時間帯は、航空会社に関係なく運賃は安いという傾向が見られる。 この表によれば、往復運賃は運航時間帯により、上方に33%、下方に22%変動している。

 

【サウスウエスト航空の運賃の状況】

 

サウスウエスト航空の運賃について下段に示してある。 対象となる便は直行便を運航している53路線である。 注釈にあるようにサウスウエスト航空の運賃水準を既存大手3社と比較するために、サウスウエスト航空の運航便の平均距離1,453kmを、前ページの計算式を用いて1,657kmに距離補正を行い、往復運賃単価を算出した。 サウスウエスト航空の平均運賃は255ドルと大手3社に比べて84ドル低い。 運賃の変動幅は大手3社の運賃変動より小さく、上方に17%、下方に6%である。 最小運賃は大手3社を23ドル下回り、最大運賃は大手3社を151ドル下回る299ドルである。最小運賃が大手3社とあまり差がないことは、運賃分布のグラフが示すとおり、サウスウエスト航空の運賃分布が線形近似線のまわりに分布していることに起因している。 サウスウエスト航空は53路線で運航する他に、62の都市間ルートで、途中1都市を経由して目的地へ向かう航空券を販売しており、これにより。大都市間路線120の内115の都市ペアをカバーしている。1地点経由の航空券は、一般に直行便以上に以上に安い運賃を設定している。

 

【その他航空会社の運賃の状況】

 

16大都市を結ぶ120路線にはアメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空、サウスウエスト航空の他、中小の航空会社も参入している。その会社が下表の8社である。


乗り入れ路線は85路線と全体の71%の路線に乗り入れているが、1日の総便数898便は120路線の乗入航空会社の総便数5,154便の17%を占めるにすぎない。路線あたりの平均便数は5.3便/日となる。

 

左から、アラスカ航空、ジェットブルー航空の2社は中堅の航空会社で、前掲のようにそれぞれ複数の大都市に拠点空港をおいている。路線ごとの平均運航便数はアラスカ航空が5.8便、ジェットブルー航空が4.9便と大手航空会社に準じる規模であるが、その他の航空会社は総じて規模が小さい。


                                       (つづく)


                                                                                                                   以上