アジアの航空業界:ワクチン接種の遅れ/国境管理が回復を阻む

当分析はCAPAが2021年6月24日に発表した

 

Asian aviation: recovery hampered by slow vaccination/border control

 

JAMRが全文翻訳したものです。

2021年6月30日

アジアの航空業界:ワクチン接種の遅れ/国境管理が回復を阻む

24-Jun-2021

世界のよその地区では、国際旅行を再開し始めて居るのに対し、アジア太平洋の主要市場では、国境を越えた航空交通の流れを取り戻す進捗は極めて小さいものでしかない。回復に火をつけてくれる収入の好機を今か今かと待ち望んで居るアジアのエアラインにとって最大の頭痛の種である。

欧州各国は、進展はばらばらで、概して統制が取れて居ないものの、自国でのCOVID-19ワクチン接種率が高い水準に達したため、幾つかの国際旅行の制限を取り除いて来た。

然し、アジア太平洋に於いては、ワクチン接種率は概ね、ずっとより低い状況である。より感染力の高い新たな波が、アジアの各国政府に国境の再開を更に慎重にさせて居り、多くの場合、国内線市場で得た儲けが、強化される制限のために浸食されて居る。

ワクチン接種プログラムは、旅行を取り戻すための最善の方策と広く考えられて居り、エアラインの復活の希望には極めて重要なものである。各国が70%以上と言う集団免疫に達するワクチン接種水準に達する時には、政府は、制限解除のより多くの選択肢を持つことになるだろう。

2021年6月版のCAPA Liveの中で、主導的なアジア太平洋の航空業界の経営者たちによる分野を超えたセッションでも、これらの問題が討議された。彼らがエアラインと空港が直面する問題の規模についてその概要を示し、短期的な展望への洞察を披露して居る。

 

概要

      ワクチン接種率は香港で依然低く、回復の好機を限定的にして居る。

      日本の政府は拡大を計画して居るものの、やはりワクチン接種プログラムは遅々として居る。

      マレーシアの国内線旅行制限は、2021年10月まで続きそうだ。

      シンガポールの交通量は、ワクチン接種率が比較的高いのに、依然最低水準にある。

      アジアのパンデミック対応での成功は、ワクチン接種プログラムに脅かされて居る。

 

香港航空、旅客便の増便の見通しは余り無い

 

香港は、ワクチン接種率が低迷して居る市場の好例である。政府の数字では、2021年6月15日現在、1回目のワクチン接種を受けたのは、人口の僅か26%、17.7%が2回目を受けて居る。インセンティブプログラムのお陰で、接種率は最近になって上がって来て居るが、集団免疫に達するのはまだ遠い標的の様に見える。香港政府は、検疫隔離を義務付け、或は殆ど全ての外国からの旅行を禁じて来た。

 

香港航空は、国際線の交通がないと地元航空産業にどんな影響が生じるかの、まさに良い証明である。同エアラインはパンデミック前の毎日100便以上から、10便まで減ったと運営担当副社長ベン・ウオングが言う。同社は、また、貨物専用便も飛ばして居り、毎日18~20便になって居る。

ウオング氏の言うには、香港航空は、少なくとも2021年の末まで、貨物便は増加させるかも知れないが、旅客便の便数を大きく増やすことは計画して居ない。彼は、同エアラインは、現在エアバスA330を8機のみ運航して居ると確認した。パンデミック前、同エアラインは、18機のA330など、30機以上の航空機を保有して居た。

旅客便運航からの収入が停滞して、香港航空は、他のエアライン同様、貨物便に大きく依存して居ると、ウオング氏は語る。同社は、既に、従業員を減らして居るが、更なる人員削減を計画中と考えられて居る。香港航空の問題は、同社が、最終的な便の回復に備え、主要ポジションとスキルの水準を維持する一方で、週末の状況に合わせた必要人員とのバランスを取る事だ、とウオング氏は言う。 

ワクチン接種率の比較的低い水準が日本の旅行リバウンドを遅らせて居る

最も新しいCOVID-19感染の波のため、日本の航空旅行市場も、また、停滞して居る。日本の国内線旅客数は、パンデミック前水準の30%に再び戻ってしまい、国際線は5%である、とJALの藤田直志取締役は語る。日本政府は、最も人口の多い地方自治体に対し、2021年4月緊急事態宣言を発し、それが2021年6月20日まで延伸された。

日本のワクチン接種率は、勢いを得るまで遅々として居た。アワ・ワールド・イン・データのウエブサイトに依れば、2021年6月14日現在、全人口の約15%が少なくとも1回の接種を受け、接種が完了して居るのは僅か5%超である。

これは、世界の経済主要国の中では、最低のワクチン接種水準の一つと言える。日本政府は、2021年6月に大学や大企業で独自のワクチン接種会場を設営することを可能にし、ワクチンプログラムを拡大し加速する計画である。

間近に迫る東京オリンピックが、日本のCOVID-19対応に特別の精査を行わせて居る。大会は、外国からの観客は許されないが、2021年7月23日に開幕する予定だ。国内の観客は、現在、多方面からの強い反対にも拘らず、屋外の会場では1万人を上限に認められる事になって居る。

JALは乗継需要が国際線のリバウンドに拍車をかける可能性ありと考える

日本への入国は現在、厳しく制限されて居るが、アジア各国と北米の間の東京経由の乗継需要が次第に増えて居ると藤田氏は言う。彼は、国際線の回復はそのような乗継旅客の流れから始まり、次いでアウトバウンドのビジネス旅行、そして最後にインバウンドの外国人旅客だろうと予測して居る。総じてレジャー旅行は、この地区でワクチン接種率が上がり次第、リバウンドして来るだろうが、パンデミック以前のビジネス旅行の一部は、バーチャル会議に取って代わられるだろうと、藤田氏は言う。

JALはパンデミックの結果としての人員削減はまだしないで済んで居ると、藤田氏は注釈して居る。然し、同エアラインは、2,000人以上の従業員を他の業界に「能力とスキルの多様化を目的として」働くべく、派遣して居ると彼は述べて居る。これにより、彼らがJALに復帰した時に事業戦略を幅広いものとする同社の努力を助けることになると期待されて居る。

エアアジア、国内線供給はCOVID-19の再襲来で低い水準に抑えられて居る

 

低コストの巨人である、エアアジアの、核となる、マレーシア事業での国内線供給は、通常水準から9%近く落ちて居ると同社COOのジャヴェド・マリクは語る。

エアアジアの国際線の運航はパンデミック前の数字に対し、0.2%で「無視できる」ほどの規模であるとマリク氏は言う。他の東南アジア各国をも含む、より大きなエアアジア・グループとしては、国内線供給は6%近く、国際線は1%である。エアアジアはマレーシアでの保有機のうち僅か7%の航空機を、そしてグループの保有機の10%を運航して居る。

マレーシアは、ワクチン接種率が未だに低い、もう一つの国だ。人口のおよそ10%が少なくとも1回のワクチン接種を受け、ワクチン接種を完了して居るのは4.2%である。

国内線旅行制限は2021年第4四半期まで長引くだろう

マレーシア市場は、2021年6月1日に始まり、2021年6月28日まで延長された、この国の3度目の都市封鎖で、厳しい影響を被って居る。

然し、都市封鎖はワクチン接種率と感染者数の進展に従って、段階的に消えて行くため、州境を超える殆どの国内旅行の禁止は、ずっと先まで続くだろう。政府は、国内旅行の制限は、2021年10月末まで、解除されないかも知れないと予想して居る。

エアアジアは通常、国内の17空港を飛んで居るが、全ての便の回復は、多分2021年後半まで無いだろうと、マリク氏は語る。より長期的には、パンデミック以前の交通量の水準は、少なくとも2022年の第2、或は第3四半期まで戻らないだろうと、彼は言う。

シンガポールのワクチン接種プログラムは比較的強力だが、交通量の伸びは最低水準に留まる

シンガポールのワクチン接種率は全人口の43%が少なくとも1回を、そして32%が完了と、アジアでは飛びぬけて居る。然し、香港、シンガポールの航空業界は国内線路線網が無いため、特にCOVID-19危機で大きな痛手を受けて居る。

シンガポールのチャンギ空港の旅客交通量はCOVID-19襲来前の僅か約3%であると、同空港の航空ハブ開発担当専務取締役リン・チン・キアットは言う。航空機の全体的稼働状況は、旅客便と貨物、その他の便を含め、およそ25%の水準である。

チャンギは、幾つかのターミナルを閉鎖し、通常のターミナルスペースのおよそ1/4に運用を統合して居ると、リム氏は語る。これにより、ターミナル2は空っぽの間に改修工事が出来るようになった。

 

シンガポール/チャンギ空港:月間旅客数、2018年~2021年(4月)

Source: CAPA and OAG.

チャンギは、空港従業員を巻き込んだクラスターが発生したため、COVID-19対策の幾つかを強化しなくてはならなかった。これは、入国旅客を「更に厳密なリスクの階層化」へと選別することを意味して居るとリム氏は言う。スタッフの研修、訓練そして、防護用器具もまた改善されて居る。

これから先を見ると、IATAは世界の国際線交通量は2023年或は2024年頃まで完全には回復しないだろうと予測して居ると、リム氏は注釈して居る。

然し、チャンギは、短期的な過渡的目標として、次の1~2年でパンデミック前の水準の30~50%に達することを考えて居る。「これは、我々にそしてエアラインのパートナーたちに、少なくともキャッシュでトントンの方向へ動く、極めて重要な物量を与えてくれると思うと、リム氏は語る。

香港・シンガポール間バブル、この地区のモデルになり得る

シンガポールと香港の間の、旅行バブルの提案は両国にとって重要である。この取り扱いは2020年11月に合意されたが、両国に於けるCOVID-19の感染爆発の影響で、何度も延期されて来た。

香港は、パンデミック前、チャンギの最上位市場の中にあり、2020年1月の時点では、CAPA(Centre for AviationとOAG)のデータによれば、週間供給席数で、香港はチャンギの路線リストの第4位にランクされて居る。

 

シンガポールの最上位10市場、週間供給席数による。2020年1月13日の週

Source: CAPA and OAG.

バブルは旅客数の点で、大きな意味を持つが、如何に政府が検疫隔離無しの旅行を創り出せるかを示す事に、より重要であると、リム氏は言う。これは2021年4月に開始された豪州=ニュージーランド間の取り決めに次ぎ、アジア太平洋地区では、最初の双方向バブルのひとつになるだろう。

ウオング氏は、シンガポールの旅行バブルの恩恵は、単に経済的なものにとどまらないだろうと認めて居る。それが最終的に成立すれば、その様なバブルに対する旅行者の信頼を拡大し、他の国々に対し、このメカニズムと安全保護策が、旅行の復活のために使える事を証明するのに役立つだろうとウオング氏は言う。

然し、マリク氏(エアアジア)は二国間のバブルは国際線旅行を再開させる解答にはならないと考えて居る。「ワクチン接種が鍵だ」と言う。「旅行バブルは余りにも短期間で、制限された旅行である。」と彼は言うのだ。

エアアジアのビジネスモデルは、東南アジア内の路線網に強く根ざして居り、人々が一つの旅行で複数の目的地に飛ぶ選択肢を与えて居ると、マリク氏は言う。この種の方策としては、単に数個の都市の間よりも、「この地区内を[自由に]旅して回れる事が必要なのである。」

「だから我々にとって、、最大限に求めるのは、誰もがワクチン接種を受けるよう促す事である。」とマリク氏は言う。「我々は集団免疫の観念を持たなくてはならない、だから75,80,90%の数字を達成し、自信を創り出そうではないか。」

中国、アジア太平洋最大の市場2022年2月の冬季五輪前までに全開はしないだろう

日本、マレーシア、台湾で感染者数の波が押し寄せ、インドネシア、フィリピン、そしてこの地区のどこかで増えるにつれ、各国政府の国際旅行解禁への意欲は制限され続ける。然し、この地区の最大の市場(国際、国内)である中国は、最近の重要港湾地域である深圳地区での感染爆発でより強まった姿勢だが、再開の見通しについて、引き続き極めて保守的である。中国に入国を許された、極めて限られた範疇の旅行者でさえ、幾つかのCOVID感染検査と厳しく強制される14日~21日間の検疫隔離を経なければならない。

報道によると、合理的で、充分に進んだワクチン接種プログラムと、とても効果的に抑えられた感染率にも拘らず、集団免疫は2021年末前には達成できない模様であり、2022年2月のオリンピック前の、大規模な再開を巡っては、可なり神経質な常態が続く事だろう。

「アジアの国のある外交官」として、最近サウスチャイナモーニングポストで語ったと引用されたのは、「世界の殆どで、パンデミックが依然として続いて居る中で、中国が国境を程なく開放する事は予想できないし、冬季オリンピックのために開放すると言うのは、単なる[多分]に過ぎない。国境を開放する事は、中国がワクチン接種を通じて、集団免疫を達成したかどうかだけで無く、他の国々にCOVID-19が蔓延して居るかどうかによるのだ。それは双務的な合意となるだろう。」

パンデミックに対応するアジア太平洋のリーダーシップ、ワクチン接種率の遅れで浸食される

パンデミックとの闘いで、受けとめられて居たアジア太平洋地区の成功は、少なくとも他地区との関係で、劇的に変化してしまった。昨年、パンデミックが米国と欧州を覆い尽くした間に、多くのアジアの国々が初期の感染爆発を上手に封じ込めた事から、見習うべきモデルと考えられた。

米国と欧州で、COVID-19の感染者数がうなぎ上りになって行った事は、そこでより大きな緊急性の認識を生み、ワクチン接種プログラムを加速させる結果になった。今や、これらの地区の国々は、より多くの国内での規制を解除するに充分に高いワクチン接種率を達成し、国際線旅行の再開さえ検討して居る。然し、アジアの殆どの国は、依然としてこの点からは遥か遠くに居る。

多くのアジアの国々は、欧州や米国と同水準の保健サービスや資源を持って居らず、これがワクチンの投入をずっと難しくして居る。然し、アジア太平洋の各国政府が、そして国民が、ワクチン接種水準を高める事の緊急性をもっと示す事は極めて重要である。地区全体で、ずっとより加速されたプログラムがあってさえ、2021年末より前に、限られた複数国間の国境開放のプラットフォームすら創り出せそうには見えない。                              以上

Asian aviation: recovery hampered by slow vaccination/border control