HNAグループ(海航集団)のリストラ第2部:外国の空港への野心

当分析はCAPAが2021年2月7日に発表した

 

HNA Group restructuring Part 2: Foreign airport aspirations

をJAMRが全文翻訳したものです。

2021年2月14日

HNAグループ(海航集団)のリストラ第2部:外国の空港への野心

07-Feb-2021

 

中国のHNAグループにとって、その経営陣は長い間、風にさらされて来て居り、特に2017年以降は偶然同グループの空港案件への関心のピークと重なって居る。

2021年1月29日、中国のHNAグループ(航空輸送、空港運営、ホテル、ロジスティクス、不動産、小売、観光、その他の関連事業をカバーする巨大な多業種企業)は、長期にわたる財政的苦闘と横領が告発されるさ中で、破産と再編を申請した。同グループが債務を期限通り返済できなかったため、債権者は破産手続きを裁判所に申請した。

HNAは、中国国内では主に小規模な地域空港、そして国外には1つしか持って居ない空港よりも、航空会社の資産目録でよく知られて居る。

然し、同グループが中国の一帯一路構想を利用しようと試みて居たことから、状況は大きく異なって居たかも知れない。

Analysis

概要Summary

l  HNAグループ(海航グループ)がAdministration(会社管理)に入る。海南航空へは新規投資家の可能性あり。

l  このグループは、中国に16の、国外に1つの空港も持って居る。

l  中国の空港への国内投資家の可能性は中程度;外国投資家の可能性は非常に低い。

l  国外のポートフォリオ(資産目録)は非常に小さいため、処分する価値は無い。

l  そのポートフォリオは遥かにもっと大きかった可能性もあったのだが、HNAは、主に財政上の問題のために、その野心を行動と一致させることは無かった。

 

HNAレポートの第1部も参照されたい:HNA(海航集団)のリストラ、中国のエアラインにとって所有者の変更を意味するかも知れない 06-Feb-2021

 

HNAの倒産は10年前から忍び寄って居た

2021年1月29日、中国のHNAグループ(航空輸送、空港運営、ホテル、ロジスティクス、不動産、小売、観光、その他の関連業界をカバーする巨大な多業種企業)は、長期にわたる財政的苦闘と横領の告発のさ中で、破産と再編を申請した。同グループが債務を期日までに返済できなかったため、債権者は破産手続きを裁判所に申請した。

それは決して予想外ではなかった。 2011年まで、同グループは最近の合併や買収により大幅な損失を被ったという報告を否定して居た。

2020年2月、COVID-19の出現によって悪化した債務危機を克服するのに苦労したため、中国当局は既に、この中国で最大のコングロマリットの1つの運営に介入して居た。同社が発表した2019年上半期の最新の財務報告によると、7,067億人民元(1,090億米ドル)の債務があった。

HNAはかつて、ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングやドイツ銀行への出資など、積極的な金遣いで世界的な注目を集めて居た。また非常に複雑な所有とリスク共有の構造で注目されて居る。

2017年に流動性の問題が発生した後、グループは債務超過となった。

 

膨大なエアラインの資産目録。。。

HNAグループは、中国国内および海外で株式を保有して居る20近くの航空会社の1つで、900機の航空機を保有して居る、海南航空の2番目に大きな株主である。

最も関心を惹いて居るのは、事業の中でも航空会社の分野である。

中国で4番目に大きい海南航空は、現時点で事業が安定して居るため、新規投資家を惹き付ける可能性があるとの憶測がある。メディアの報道によると、HNAグループの全ての子会社は今年は、戦略的投資家を呼び込むための交渉に費やす予定だ。

 

…そして国内では空港の資産目録が強烈だが、国際的にはそうで無い

しかし、HNAの殆ど全てが中国国内である空港資産目録は、これで一体どうなるのだろうか。それが外国の空港所有の野心にどのような影響を与えるだろうか。

外国の空港分野に対する同社の野心はかつては非常に高かった、然しまた財政状況が悪化し始めた2017年から、劇的に縮小したと言うのが公平だろう。

かつては案件を求めて世界中を追いかけて居たが、今ではたった1つの投資例しか無い。具体的には、フランクフルト・ハーン、LCC、貨物向けの副次的なドイツの空港の一部所有権である。

中国国内で、子会社、およびHNAインフラストラクチャグループ/ HNAエアポートグループ/ HNAエアポートホールディングス(グループ)などの子会社の子会社を通じて、同グループはフランクフルト・ハーンの部分的な株式保有と共に、中国の16の空港でも50%から100%の範囲の株式を保有して居る。

これは、HNAをCAPAグローバル空港投資家ディレクトリの「主要なグローバル投資家」として登録するのに十分である。

 

 

HNAの空港ー稼働中の空港

Source: CAPA - Centre for Aviation.

 

海口美蘭と三亜鳳凰は同グループの国内の宝石である

 

中国国内で最も重要な2つの空港は、ともに海南島への玄関口である海口海南美蘭と三亜鳳凰で、どちらも国の南部、リゾート観光地にサービスを提供して居る。

2019年、海口空港は2,420万人の旅客を扱い、三亜空港は2,020万人だった。海口海南の供給席数は現在、2020年の水準の65%、三亜は73%で稼働して居る。

海口美蘭は、中国で外国からの投資の対象となった数少ない空港の1つである。

コペンハーゲン・エアポーツは、オリエンタルパトロン(香港)に売却する前に、株式の20%を保有して居た。コペンハーゲン・エアポーツは、中国への初期段階から、戦略的方向性の観点から少数株式の保有が無価値であることを理解した、幾つかの投資家の1つである。その中で、フラポートは西安空港の少数株主で残って居るが、アエロポルト・ドゥ・パリ、ヴァンシ・エアポーツが居て、彼らも中国を撤退して居る。

 

外国の投資家は中国の空港に戻って来そうもない

海口空港と三亜空港のいずれかに投資するために外国の投資家が中国に戻る可能性については(HNAの他の中国国内の14件は地域空港である)、その可能性はやはり非常に小さい。

「Airport Privatization and Finance Review」(2018年9月号)の序文で、「中国には幾つかの世界規模の外部投資家が居るが(それにHNAが選ばれて居る)、中国は相変わらず、外国からの自国の空港への対内投資を歓迎して居ない。」

それ以来変化はなく、アジア全体への影響を及ぼす、香港での政情不安、新疆ウイグル自治区に住む1,100万人のウイグル人の処遇に対する国際的な非難、COVID-19、そして今度はミャンマーでの軍事クーデターと、これらの後にはやはり有りそうにない。

若し、外国の空港投資家が、この今、実際に良い取引を探して居たら、彼らのそして彼らの顧客の資金を投資するために、世界にはもっと安全な場所が幾つもある。

 

HNAの唯一の国外の空港投資=独ハーン空港、旅客数激減だが貨物は伸びる

外国での投資がどうなるのかについては、同グループがドイツのADC GmbHとともに、2017年8月に82.5%の株式を1,580万米ドルで購入した、(ヘッセン州は17.5%の保有を維持することにしたが)ラインラント・プファルツ州のフランクフルト・ハーン空港が唯一の例である。 HNA グループは、事業を引き継いだ最初の数年間で、旅客の交通量と貨物量の両方とも減少して居たハーン空港に、5,000万ユーロを投資すると表明した。 HNAは、この空港を、中国の「一帯一路」構想を支援する、中国とヨーロッパ間の主要な商業ハブになる可能性があると見なしたのだ。

HNAが会社管理(administration)から抜け出た時には、この構想の一部として役立つ空港での負担から解放される可能性はある;然し、2016年以降、旅客数は前年比で一貫して減少しており、10年間で最高の350万人(2010年)から2019年にはわずか150万人に減少して居る。

そして、それはCOVIDが災害をもたらす前のことである。

 

 

フランクフルト・ハーン空港:年間旅客数、2010年~2020年

Source: CAPA - Centre for Aviation and Flughafenverband ADV (German Airports Association).

一方で、貨物供給量は、2017年以来一貫して伸びて居り、2020年でさえ、他の多くの空港と共通して居るが、e-コマースと医療用品の輸送が劇的に増大して居る。これは、旅客数よりも一帯一路構想に沿った事態である。

 

 

フランクフルト・ハーン空港:年間総貨物輸送(kg)供給量、2013年~2021年*

Source: CAPA - Centre for Aviation and OAG.

 

プロブディフ、ベオグラード、オシェク:全ての中欧の空港の願望は一帯一路構想を中心に展開して居る

HNAが殆ど投資家および運営者となりかけた他の欧州の空港は、ブルガリア第2の都市にあるプロブディフ空港である。前述のとおり、貨物の潜在需要と一帯一路構想との関係が原動力だった。

2018年3月、ブルガリアはHNAエアポートグループにプロブディフ・クルモヴォ国際空港の運営に関する35年間の営業権を与えた。その間に、HNAは、新しい貨物および旅客ターミナルと、MRO施設を含む7,900万ユーロの投資を行う義務を課せられた。

しかし、2018年10月までに、HNAが益々自社の財政危機に巻き込まれ、関心を失い、その申し出を撤回し、営業権付与は取り消された。コンセッショネアは、年間600,000 BGN(当時は306,775ユーロ)の固定料金と、全てのコンセッション活動からの総純利益の6%の変動料金を支払うことになって居た。それは中央および東欧州の貨物活動のための羨むべき立地を手に入れる事になる筈だったろう。

欧州への他の投資の可能性に関しては、HNAがベルギーのブリュッセル南シャルルロワ空港の27.6%の入札が不成功に終わった10年以上前に始まった(最終的にはイタリアのS.A.V.E.が20.68%を獲得した)。

その頃、HNAグループは、世界クラスの企業を構築し、世界的に有名なブランドになるという野心の一環として、空港資産を求めて欧州を探し回って居ると噂されて居た。 HNAのウェブサイトは、「明るい未来のために、世界中のすべての優れた企業や先見性のある人々と協力する」と述べて居る。

その後、他の欧州での投資の可能性として、ベオグラード・ニコラ・テスラ空港(2017年)がある。セルビア政府は、ベオグラード・ニコラ・テスラ空港の25年間の営業権について、HNA エアポートグループ、AVIC International Holding Corporationと中国-ASEAN投資協力基金のコンソーシアムからの1件を含む、4件の拘束力のある入札を受けた。 (中国の深圳空港グループは別の入札者だった)。勿論、グループの一員である海南航空は、ベオグラード・ニコラ・テスラ空港へのこのHNA投資と並行して、北京=ベオグラード便を開設することを計画して居た。

その際の落札者はヴァンシ・エアポーツであり、2019年まで旅客輸送量は大幅に増加し続けたが、貨物量(少なくともHNAにとって望ましい)は増加せず、実際には2019年に6%減少した。

欧州の地図を見て、一帯一路構想と比較すると、これらの空港(フランクフルト・ハーン、プロブディフ、ベオグラード)がジグソーパズルにどのように嵌るかが分かる。

 

 

プロブディフ、ベオグラード(セルビア)とフランクフルトの位置関係

Source: Google Maps.

 

The New Silk Road 一帯一路構想

Source: Xinhua/Novinte.

HNAはまた、この間、クロアチアとスロベニアの政府の代表者と空港インフラへの潜在的な関心について話し合って来た。クロアチアでは、十分に活用されて居ないオシエク空港に関心があった。 CEOによると、HNAは「中央および東欧州で追加の提携関係を確立することを約束した」。

確かに、同社は以前のユーゴスラビアであった地域全体で非常に活発に動いて居た。

 

今や捨て去られた空港への入札に1億ユーロを検討した

その前に、HNAは、マドリード南部のシウダー・レアル空港プロジェクトへの投資への関心を登録し、撤回した。そこでは、現在放棄されて居る空港と、当時のドイツのホッホティーフ・エアポーツ(現在はAvialliance)の資産に対して、BAA Airports Ltdの10%の株式を取得するとともに1億ユーロの入札を検討した。

然し、他にも残念な結果があったにも拘らず、HNAの触手は更に伸びて居た。

 

リオデジャネイロの入札が熱意と資金を枯渇させた

2017年9月、ブラジルの規制当局ANACは、リオデジャネイロ・ガレオン国際空港のRIOgaleãoの株式の51%をブラジルの会社OdebrechtからHNA Infrastructureに譲渡し、残りの49%をシンガポールのChangi AirportGroupに譲渡することを承認した。

この取引は、当時のブラジルへの投資に関する中国との幾つかの議定書の署名に関連して居る可能性があり、その中で中国の国家主席は、空港、港、高速道路、鉄道への投資を摸索する中国企業への支援を「確約」した。さらに、HNAは、同グループがこの株式を取得するのに合わせ、中国=リスボン=リオデジャネイロ便の開設を計画して居た。

ブラジルとHNAは、空港を含むブラジルでのインフラプロジェクト全般で、更に協力することに合意し、HNAによるガレオンの株式の取得は、ブラジルでのHNAの拡大の第一歩と見なされた。

然し、取引は成立しなかった。

おそらく自社の財政的苦境のために、HNAは必要な支払いを期限通りに行うことが出来なかった。このため、チャンギ空港が、既存の株主として、オデブレヒトの株式を購入する権利を持って居た。この取引により、HNAインフラストラクチャの足跡と原資が海外およびラテンアメリカで大幅に拡充されることが期待されたが、明らかにそれは出来なかった。

より本拠地に近く、HNAは2010年5月に韓国の仁川空港グループと、北京首都国際空港から4.5kmの北京国際航空都市プロジェクトを300億元(当時の4 .4億米ドル)の投資で建設する戦略的協力の意向書に署名した。

 

2つの空港サプライチェーン会社を買収し売却

HNAは、世界最大の空港ケータリング会社であるゲートグループや、世界最大のグランドハンドリング会社の1つであるスイスポートなどの空港サービスやサプライチェーン会社の買収にも積極的に取り組んで居る。その後、両方とも売却された(それぞれ2019年と2020年)。

要約すると、HNAグループは空港セクターと言う点で、大きな希望を示した巨大な企業である。マッコーリー・エアポーツやGIP(Global Infrastructure Partners)を含め、このような企業の多くは過去20年の間に活動し、消滅してしまった(或は縮小し、現在では殆ど目立たない)もの、また彼らにとって代わったコーポラシオン・アメリカなど、そして他には VINCIなどの様にまた蘇ったものもある。

中国の政治情勢は、一部の株式は公的機関の手に渡ったり、他の国内投資家が見つかる可能性はあるものの、HNAが引き続きこの国の空港を支配するだろうと示唆して居る。

 

(一帯)一路の終焉?アフリカは敗者

国際的には、これはHNAの外国空港への野心、一帯一路構想への参画(少なくとも航空の観点から)、そして資金投資と新しい長距離航空路線の両方を含む契約により、将来の発展を維持することを望んで居た中欧の各空港にとっての道の終わりの様である。

一帯一路に関する限り、TAVエアポーツ社が、とにかくそのギャップを埋めて居る様だ。

<関連記事参照>:TAVエアポーツ社、新しいシルクロード投資の好機に惹かれる

おそらく最大の損失はアフリカである。

HNAはこの大陸にあまり関心を示さなかった。中国企業はアフリカ大陸のあらゆる所に進出して居るし、インフラの構築と引き換えに資源を持ち出して居るのに、これは、おかしな事である。そのインフラは、増え続ける人口と改善しつつある経済とともに、それに資する空港を必要として居る。

 

以上