航空の安全 対「告発の要請」=無差別な告発が、安全の文化を蝕む

当分析は、CAPAが10月27日に発表した 

  

Aviation safety vs the “prosecutorial imperative”. Indiscriminate prosecutions erode safety culture

 

をJAMRが翻訳したものです。

27-Oct-2015


このレポートは、20151022日、ワシントンDCで行なわれた、米国法曹協会のTort Trial & Insurance Practice Section(私犯訴訟と保険実務分野)メンバーに対するIATA法律顧問ジェフ・シェーンによる基調講演の詳細な抜粋を収録したものである。シェーン氏は、航空安全の向上を目的として、航空事故から学んだ教訓を適用する事に尽くして居る人々に対して、懸念されることの主要部分を語った。

 

安全管理についての、大きな進歩は、1970年代に遡り、任意報告システムの出現とともにやって来た。シェーン氏は、このシステムは、多くの国の管理当局者達により、安全基準に対する、懲罰的でなく、「公正な文化」とする接し方の一部として、奨励されたものである、と説明して居る。管理当局者とエアライン双方の間に同様に湧き上がって来た、「公正な文化」とする接し方には、強制的懲罰の制度に比べ、より大きな効果を生み出して居ると言う共通認識があった。その様なシステムを成功させる為に、肝心な事の一つは、そのシステムに依って得られた情報については、厳格に秘密が守られる事である。

 

然し、シェーン氏は、判事や、検察官や法廷の弁護士達が、執拗な「告発の要請」から、屡々この情報を入手しようと試みることに、そして「彼らがそれを上手く手に入れて居り、その数がどんどん増えて居る事」に懸念を抱いて居るのだ。もしこの傾向が続くなら、貴重な知識、情報を持った人々が、その情報を公表する事による法的な結末を怖れるため、「安全の為に肝心で必要な情報の流れは、簡単に枯渇してしまうだろう。」と、シェーン氏は言う。

 

法律と航空安全の 交差するところについて

 

2015年は、航空業界にとって、歴史的な年になろうとして居る。数日前、ハンブルグでのIATA世界旅客シンポジウムで、私のボス、事務総長のトニー・タイラーが、2015年は、全航空産業の総収入が7,270億ドルで純益が293億ドル、利益率が4%、投下資本利益率7.5%と発表して居る。この産業全体が投資家たちに対して、世間水準並の価値を創り出すと実際に期待できるのは、初めてのことだ。アップル社は、今年の第2四半期だけで136億ドルを稼ぎ利益率は23.4%であるから、航空業界は他の産業に比べれば立派な業績とは言い難いが、この業界にとって、4%はお祝いすべき数字なのだ。

 

然し、私の今日のテーマは、民間航空の業界で、訳の分からない利益を追求することでは無い。そうではなく、特に、最近の興味深い展開に焦点を当てた、法律と航空安全の交差するところについてである。

 

安全情報の保護ーそして、事故からの教訓

 

まず1999年のモントリオール条約に触れるのが、議論を始めるのに良い方法かも知れない。私の想像では、この条約が発効する以前はどんな状態だったか、この会場に居られる方々は、誰よりも良くご存知だと思う。嘗てのワルシャワ/ハーグ体制下では、エアラインは不幸な出来事に対して、厳格な責任を負って居たが、事故の犠牲者は、自ら訴訟を起こせる管轄の司法機構に依って、ある馬鹿げて低い金額の補償以上は、得る資格が無いとされて居た。 エアラインが、監督官庁から、この条約による損害賠償額の増額を強く促されていた米国に於いてさえ、補償額の上限は、旅客一人当たり75,000ドルだった。

 

原告が、この上限を破ることの出来る唯一の方法は、長い年月と金がかかり、原告、被告を同様に責め苛む、重大な過失、無謀な危険行為を追求して、エアラインが無謀な「故意の不法行為」について有罪であると法廷で証明する事だった。90年代の半ばまで、エアライン業界は、嫌という程経験した事である。

 

1996年に、IATAと 米国航空交通協会(現在のA4A)の仲介でエアライン間の合意が成立し、エアラインは、ワルシャワ/ハーグ条約の責任上限を廃止した。 1999年のモントリオール会議で、この廃止は批准され発効した。今日、厳格な責任は、依然、体制の中核をなして居る、然し、エアラインが、事故は自らの過失が原因でない事を証明できない限り、言い換えれば、事故を未然に防ぐために、あらゆる可能な手段を講じたと証明できない限り、原告は、全ての証明可能な経済的損害の賠償を請求できる。結果としては、要求がMC99に該当する限り、最早、エアラインが「故意の不法行為」について有罪であるか否かを何年もかけて法廷で争う理由は無くなったのだ。

 

極めて稀に、エアラインが、首尾よく無過失の証明に成功した場合でも、原告は113,100SDR(特別引出し権)、現在のレートで、約160,000ドルを要求できる。モントリオール 条約は、補償の手続きを、より人間らしく、確かなものにしたのだ。然し、それはまた、もっと大切な改善も齎した。私は、原告側の弁護士が法廷で、さも無くば見過ごされて居たかも知れない重要な事実を証拠とする為に、あらゆる手法を、誇らし気に駆使するのを見て来た。

 

1999年のモントリオール条約のお陰で、ある時は、こちらに、また、ある時は相手側に有利になる様な事実関係を組み上げようとする論争主導の意識は、概ね過去のものになった。

然し、私達、弁護士には、クライアントに最も有利な条件で、事実を組み立てると言う職業上の責任がある。この為、事実発掘の作業は、弁護の二の次に成る可能性がある。

 

結局、事故と言うものは全て、残念な事なのだが、私達が、実際に何が起きたのかを見つけ出せる限り、それは航空の安全性を高めるチャンスそのものなのだ。20年以上に及ぶ民事訴訟での重要な進展のお陰で、私達にとって、今がそのチャンスを存分に活用する好機だと言えるのだ。

 

エアラインが初めてワルシャワ条約の下での賠償責任の上限を取り払った1996年以降、民間航空業界では、人命に関わる事故の率が着実に、低下して居る。事実、2014年は、私達の歴史上、 最も安全な年だった。2014年、百万飛行区間当たりの、ジェット機の機体が失われた数は、0.23で史上最低の記録だった。信ずるかどうかは別として、「故意の不法行為」訴訟が無くなる事は、着実な事故の減少と言う要素の一つであり、少なくともそれらの論争が減少する事は、安全にとって悪影響を与えたと言う結果にはなって居ないのだ。

 

 

告発の要請 対「公正な文化」

 

然し、時おり発生する過ちから学ぶ事に対して、ここにもう一つ悩ましい障害がある。それを私は「告発の要請」と呼ぶ事にする。

 

余りにも多くの司法機関に、全ての事故を潜在的な犯罪として扱おうとする本能があるのだ。単に何が起こったのかを見つけ出して、今後、再発しない様にしたいと考える、技術的な事故の調査員と、事故の原因となったのは罰すべき行為なのかどうかを見極めて、もしそうならこの行為を罰しようとする犯罪捜査員の間に即座に緊張が走る。警察が事故現場の周囲に黄色いテープを張り巡らせて、目撃者の聞き込みを始めたら、一体何が起こるか言うまでも無いだろう。事件の最も近くに居て、最も価値のある情報を持った人々が、弁護士を雇い、彼らのする証言は何でも、自分たちの不利益になる様に使われるかも知れないぞと警告される。事実をつかみ出す事がずっと難しくなるのだ。

 

「告発の要請」は根源的に、最重要な安全の倫理を損なう可能性がある

 

更にもっと懸念される事は、「告発の要請」は、根源的な方法で、航空業界のDNAに刷り込まれた、全てに君臨する安全の倫理を傷つける可能性がある事だ。私は、この業界で、広く、理想的な安全な行為のためには必要不可欠であると扱われている「公正な文化」というアプローチについて話そうと思う。この考え方は、初めて、任意の報告制度が確立された1970年代に遡る。

 

それは、単純な概念である。即ち、会社とその従業員は、どんな欠陥も、どんな不自然さ、平常からかけ離れた如何なる事象、どんな事でも航空の安全を損なうかも知れ無い事なら何でも、任意に報告する様に奨励されるのだ。情報と情報源の秘密は厳格に守られる。そして、従業員に対しても、会社に対しても、如何なる懲罰もなされ無い。犯罪行為に対しての保護は与えられ無いが、それは問題外としても情報については神聖不可侵である。

 

「公正な文化」と言うアプローチの素晴らしい所は、単に、人命を救うタイムリーな情報が生み出される事だけでは無く、その情報から恩恵を得る可能性を持つ人々に広く共有されるという事なのである。安全に関する重要な情報が大量に詰まった、オンラインで検索可能なデータベースが存在する。 今日の洗練された分析技術と人工知能を以ってすれば、危険な状況の兆候を予測したり、実際のシステムトラブルを十分未然に修理する事が可能なのである。

 

浮かび上がる共通認識:何かが欠けていること、は「公正な文化」のアプローチで最も良く見つけ出せる

 

「公正な文化」のアプローチの価値は、監督官庁からも広く認識されて居る。FAAは、さる6月、監督官庁の規定に違反した場合、それが開示されれば、非懲罰的方法で正す事に重点を置く、新たなコンプライアンス方針(FAA Order 8000.373, June 26, 2015)を発信した。規定違反の幾つかは、誤った手順、単なるミス、理解の不足、或は技倆不足から起こる事に着目し、FAAは、この様な何かが足りない状態は、「監督される企業団体に於いて、根本的原因の分析、訓練、教育、または手順や訓練計画に適切な改善を加える事に依って、最も効率的に矯正できる」と考えて居る。言い換えれば、懲罰を加える事に依ってでは無く、である。その目的は、極めて明らかに、全てのエアラインに取って必要な、安全管理の制度が、理想的に稼働する事を確実にする為に、任意の報告制度を奨励する事である。

 

CASAは、航空界全体を通じて、人々が、その行動や、怠慢、或は経験や、資格や、訓練に従って下された決断に対し、懲罰されないという[公正な文化]を擁護し、奨励する。」

 

つい先月の話だが、豪州の民間航空安全庁(CASA)は、更に明確に「公正な文化」的手法を擁護する、新たな管理方針を発表した。同庁は述べて居る、「CASAは、航空界全体を通じて、人々が、その行動や、怠慢、或は経験や、資格や、訓練に従って下された決断に対し、懲罰され無いという[公正な文化]を擁護し、奨励する。」

 

今月になって、欧州委員会は、「欧州企業、公正な文化宣言」の導入の為に、ブリュッセルで会議を開いた。この宣言は次の様に述べて居る。「航空業界の事業運営の環境下で、訓練、熟練度、経験、能力、そして善意の如何に関わらず、個々の人々は、望まれず、予測のできないシステム上の影響と、人間能力の限界から、好ましからぬ結果に直面する可能性がある。」

これと同じ要点を、短くした、バンパーに貼るスティッカーがある。こんな風に言い換えられる、「物事は起こるのだ。」

宣言はこう続く、「各組織に於ける、報告された出来事の分析は、まず、システムの稼働状況や、原因となった要素に焦点を当てるべきであり、お咎めの所在や個々人の責任に当てられるべきでは無い。」

監督官庁や業界の中に、任意による安全に関わる情報開示は、全ての人々の利益になり、その為の最良の方法は、任意に開示された、何かが欠けて居る事の情報に対しては、非懲罰的な救済方法が取られる事だ、と言う共通認識が、極めてはっきりと浮かび上がって来て居る。

 

ICAOと地球規模の保護策

 

近年、判事や、検事、原告弁護人がこの重要な安全情報にアクセスしようと試みる例が余りにも多くなって居る

 

この共通認識にも関わらず、近年、判事や、検事、原告弁護人がこの重要な安全情報にアクセスしようと試みる例が余りにも多くなって居る。 そしてそれに成功する例がどんどん増えて居る。この傾向が続くとしたら、安全情報の重要な流れは、容易に干上がってしまう事は間違いない。

この危険に対する理解も広がって居て、全世界的に、特に重要なのはICAOで、解決すべき問題として取り組まれて居る。

 

5年前、ICAOの高級レベルでの安全会議が、シカゴ条約の、安全管理対策に絞った新たな付属書に含まれるべきものとして、ICAOでは「基準と奨励される実施要領」(SARPs)と呼ぶ、新たに編纂した指針を発表した。議定書の付属書は、皆さん多分ご存知の通り、協定で宣言された高いレベルの原理を、より具体的な、噛み砕いた指針に変える役割を持って居る。

 

然し、それらは単独では効力を持たない。即ち、付属書が効力を持つ為には、各国の国法や規定を通して施行されねばならないのだ。但し、通常は、そうなって居る。何故なら、各国政府の航空安全に対する管理監督の品質は、ICAOSARPsやその他の指針をどの程度まで施行して居るかで測られるからなのだ。

 

5年前に世に出た、ICAOの新SARPsは、安全情報を保護する事に関する政府の責任を、明確にする目的を持っている。事故調査から得られた情報の保護については、既にある程度、付属書に述べられて居る。付属書13号だ。新しいSARPsは、これらの保護を強化し、今や、航空会社の運営にとって、無くてはならない要素となった安全管理システム(勿論、私が今、お話しして居る、任意の報告制度を含む)などによって得られた情報を、明白にその対象として包含する目的を持って居た。この新しい指針は、新たな安全管理の付属書(付属書19)に含まれる事になって居る。如何なる疑問も残さない様に言うが、今熟慮されて居る保護とは、検事、判事、法廷弁護士さえも含めた人々からの保護を意味して居る。

 

最も重要な条項の幾つかは、付属書19として提案される、新「保護の原理」の中にリストアップされるだろう。最初の原理は「各国政府は、安全のデータ、安全情報は、例外の原則が適用され無い限り、以下の様な目的で使用されてはならない事を確約する。 

 

a)従業員、運営に携わる人員、或は組織に対して矯正的な、民事の、統制的な、或は刑事の訴訟手続の為に、b)公衆に開示する為に、c)安全を維持する、または改善する目的以外の目的で、」

この例外の原則とは、皆さんが予想する様に、問題の行為が、無謀な危険行為や重大な怠慢、故意の不法行為、など呼び方は種々あっても、正直な失敗という程度のものから、明らかに一線を越える様な、どんな国の法律でも、適用されれば、必ず告発の対象になる様な行為の事である。

 

然し、現在、世間を支配する考え方は、簡単に言えば、正直な失敗を懲罰の対象にして、貴重な安全の情報の流れを阻み、実際には航空の世界の危険予測レベルを高めてしまう様なものなのだ。

 

ICAO2016年末までに世界標準的アプローチの基礎作りに向けて動いて居る

 

この新たな条項は、さる7月、各国政府に最後の見直しとして、ICAOが呼ぶところの「公式文書」で、回付されて居る。各国政府からのコメントは先週1015日が締め切りだった。次のステップは、ICAOの運営組織である、ICAO理事会に対して条文の最終審査の為に提出する前提で、ICAOの航空委員会での再検証が行われ、最終的承認は来年3月の予定だ。誰にも異論は無いと思われる。その上で新条項は来年の11月に発効する事になる。

 

まだ残された疑問は、新条項が一体いつ、各国政府に対して正式に提示されるのかという事で、2018年、或は2020年が選択肢として議論されて居る。先ほど述べた通り、ICAO付属書はそれだけでは効力を持たず、効力を持ち施行される為には、各国政府によって国の法律に書き変えられねばならない。私の推測ではかなり多くの国の政府が新条文が発効するのを待たずに、早めに各国独自の立法手続きを開始するだろう。

 

これらは、全てエアラインにとって、良いニュースである事は勿論だが、皆さんや私などその顧客にとってもずっと良いニュースなのである。航空輸送は既に、しかも格段の差をつけて、最も安全な輸送手段となって居る。然し、航空交通量はこれからの20年間を経て、倍増するだろうと予測されて居る。

 

それが何を意味するかと言うと、今日私たちが依存している、素晴らしい安全管理システムを更に改善する為に、我々には最大限の努力をする義務があると言う事だ。私がお話しした、法律の改変こそは、その改善の根幹をなす要素となるだろう。

 

 

Aviation safety vs the “prosecutorial imperative”. Indiscriminate prosecutions erode safety culture

 

 

 

 

海外事情

毎日、外国の旅行流通ニュースを読んでいると、トラベルテックの急速な変化 に驚かせられると同時に、それが達成する能力や機能のレベルの高さにワクワ クする高揚感を禁じ得ない。 OTA の市場における勢力が勢いを増し始めた 2010 年頃に、伝統的オフライン の旅行会社は無くなってしまうと喧伝されたが、それから20 年近くたった今で もそうなっていない。TTA のヒューマンタッチのサービスは、オンライン専業 のOTA には真似られないというのがその理由だ。しかし近のトラベルテック の凄まじい進化と発展を見ると、この理由は根拠を失いつつあるようだ。旅行 ではパーソナルなエクスペリエンスを提供できた者が勝利者となる。AI(人工 知能)を駆使してビッグデータを分析すれば、パーソナルなエクスペリエンス の提供が可能なると想像するのは間違いではないかもしれない。 すでに、「もの」の世界で Amazon がこれを実現して大きな成功を収めている。 「こと」の世界でも同じようなことが起きるだろう。事実、旅行者のポケット に収まる24/7のパーソナルアシスタントが実用化し始めている。こんなことを、 「12. ホスピタリティー教祖Dave Berks とのQ&A」を読んで考えた。(編集人)